8ca3917f.jpg  この時期になると、新しい年の予定を新しい手帳に書き込まなければならない。買ったばかりの真新しい、そう例えて言うならウサギの足跡一つない新雪で覆われた原野のように汚れていない紙面に、文化的なわが足跡を刻むような気分だ。

 どこの本屋も手帳コーナーにけっこうな面積を割いている。こういうときだからこそ反抗心をもって、ファミリー・キャンプ・ガイドブック特設コーナーなんかを設ける本屋があったらたいしたもんだと思うのは、私だけだろう。たぶん。

 私が毎年使っている手帳は、サンノーとか高橋とか能率とかダイゴといったメジャーなものではない。文句をつけるわけではないが、これらの手帳のラインナップを見ても、私には全然使いやすいとは思えない。

 「じゃあ、あなたは何をお使いなの?」って質問が当然出てくるだろう。そう聞こえた気がする。
 私が愛用しているのは(株)博文館新社のサジェスという手帳だ。サジェスにもいくつかの種類があるがNo.95という商品だ。とても使いやすい(なお、感想は個人的なものであり、使用感は人によって異なることをお断りしておく)。

 ところがこの手帳、どこでもは売っていない。
 一時期は、毎年、博文館のホームページから通販で買っていたくらいだ。
 ここ最近は、札幌の一部の中型書店にあることを発見。11月中旬にゲットした。  

 2012年版の手帳は今年の12月5日の週から始まっている。
 つまり今週の月曜からだ。

 ということで、おとといの夕方、今週から2012年版の手帳に切り替えるべく、まずは年内の予定を現行手帳から丁寧に転記した。
 手帳への書き込みは、私の場合、必ずシャープペンを使う。予定変更などは、過去の心の傷のようにきれいに消してしまうためだ。

 さらに、予定を大きく4つに分類する。
 自分がいるフロアでの来客や打ち合わせはオレンジ色、社内の別なフロアでの接客や会議などは黄色、外へ出かける用事は緑色、出張は水色でと、それぞれの予定を色鉛筆による線で囲むのである。色鉛筆だから、これも変更やキャンセルがあった場合には消すことができる。

 こうして今月分の転記を終えた。毎年のことだが、最初のうちは自分でも感心するほど几帳面に記入する。年初めと12月の文字を見ると、あたかも後退成長しているがごとく、文字がぞんざいになっていく。

 次はいよいよ年明けの予定の書き込みだ。
 1月の第2週の月曜日の予定を書き込む。
 おっと、この会議は月曜日じゃなくて火曜日だった。
 消しゴムで消す。
 ベリッ!

 おぉ、神よ!何ということだ!
 や・ぶ・れ・て・し・も・う・た!

 ページの3分の1ほどが破れたのだ。
 取り返しのつかないことをしてしまった。間違って砂糖壺にアジシオを入れてしまったくらい、取り返しのつかないことだ。

 世紀末ならぬ年末的ショックのあまり、私の頭の中で何十個もの小石がカラカラ、コンコン、トントン、ジャラジャラと飛び跳ねている音がした気がした。そして、やがて解決しようのない失望感からか、思考がおかしくなり頭の中がぼんやりふんわりした夢心地のような支配された。

 これ、何かの音楽に似ている……
 打楽器の複雑な響きの絡み合い……
 
 クセナキス(Iannis Xenakis 1922-2001 ギリシャ→フランス)の「プレイアデス(Pleiades)」(1978-79)。
 6人の打楽器奏者によって演奏される4部から成る40分ほどの作品。

 クセナキスはこの曲について2つのことを試みていると述べているが、それは「1つはマリンバなどで演奏ができる、西洋的ではない音階をつくること」と、「2つ目は微分音による19の音高を持つSixxenという金属打楽器を作り、用いている」ことだそうだ。そして、6人の奏者はユニゾンになることはないという。

 各楽章は、

 1. メランジェ(混合)
 2. メトー(金属)
 3. クラヴェ(鍵盤)
 4. ポー(太鼓)

となっている。

 なかなか踏み切れないとは思うが、この不思議な音響世界を体験したい方は、ぜひご自身でCDを購入することを本気で検討してはいかがだろうか?
 私が持っているCDは、The Kroumata パーカッション・アンサンブルの演奏によるもの。
 1990録音。BIS。

 ところで、プレイアデス(プレアデス)というのは、おうし座にある散開星団の名前。メシエ天体としてはM45、和名はすばるである。
 前にも書いたように、私の大好きな天体であるが、載っている車がスバルなのは単なる偶然。そういえば村上春樹の小説にもスバルの車が出てきたっけ……
 音楽作品では、かの吉松隆センセが「プレイアデス舞曲集」というのを書いている。

 プレアデスは地球から400光年の距離にあり、できてから6000万年~1億年という若い星の集団。望遠鏡で見ると、その青白い輝きがとても美しい。
 
 それはともかくとして、傷ついたおニューの手帳。
 セロハンテープで補修してみたが、もうこれを使う気にはとてもなれない。
 ただでさえ希望に満ちていない新年を、汚れた乙女と迎えたくはない。
 この子と1年間一緒にいることはできない。
 絶対に愛情はわかない。

 私は、その日の会社帰りに、新しい手帳を求めて書店回りをした。
 捜索は難航を極めたが、やっと1冊だけ店頭に残っていたサジェス(No.95)を見つけ購入することができた。博文館さま、私は今年、御社に倍の投資をしました。褒めてください。

 今度は腫れ物に触るようなスタンスで、手帳に記入しなきゃ。