9c51f12d.jpg  宮部みゆきの「ブレイブ・ストーリー」(角川文庫)。
 2003年の作品で、文庫化は2006年。

 小学生の少年が“幻界”を旅する物語だが、これはどのような年齢層を対象に書かれたものなのだろう?
 ときに、とても子供っぽい言い回しや感情が表現されているかと思えば(主人公の年からすれば、それが自然なんだろう)、小学生がこんな言葉や文字を知ってるのかというくらいの大人顔負けに聡明になったりする。

 とはいえ、非常に面白い小説で、大人の、しかも枯れ気味の私もとても楽しめた。いや、上→中→下巻と進むにつれ、そのスピードはどんどん上がっていった。それぐらい先が気になるのだ。
 というのも、架空世界の冒険ストーリーそのものも面白いが、“北”と“南”の国というどこかの半島を連想せずにはいられない設定とか宗教問題や人種問題など、現代のさまざま問題を暗喩しているような世界が描かれているからだ。
 
 すでにかなり広く読まれている本のようだが(その証拠と言ってはなんだが、今は東京の大学に通っている次男の部屋の本棚を見ると、残して行った数少ない文庫本のなかに、この全3巻が並んでいた。いったい、どういうきっかけで読むつもりになったのだろう?)、ストーリーについてはここでは触れない。

 私は変な箇所で心打たれることが多いのだが、この小説でいちばんグッと来てしまったのは、下巻の後半。主人公のワタルが生まれたときから今まで(わずか10年ほどのことだが)の出来事の映像を、ある場所で目にするところ。家族との幼少期からの楽しくて幸福な思い出が次々とよみがえる……

 私はこういうのにひどく弱い。
 自分の幼少期が人に比べて不幸だったとは思わないが、多分、私は両親とのふれあいは少なかったんだと思う。アイジョウブソクってやつだ。
 ちょいと目頭が熱くなった。いかんね。歳を取ると涙腺のしまりが悪くなって……

 にしても、宮部みゆきはやっぱりすごい。

 ブレイブというのは「勇敢な」とか「勇士」「勇者」といった意味だが。そういえば、かつて阪急ブレーブズっていうプロ野球チームがあった(古いな)。

 クラシック音楽の作品では、勇者と名がつく作品で有名なのは、ヘンデル(Georg Friedrich Handel 1685-1759 ドイツ→イギリス)の「見よ、勇者は帰る(See,the conquering hero comes)」。
 といっても、この曲の名前を聞いてもピンとこない人も多いだろう。なんのことはない、表彰式なんかでいつも使われている、「♪ちゃーらーららーらー、ちゃららららららー」って曲で(かえって混乱させたとしたらゴメン)、得賞歌と呼ばれている。これは、オラトリオ「マカベウスのユダ(Judas Maccabaeus)」HMV.63(1747初演。台本=モーレル)の中の1曲である。

 このオラトリオは、紀元前2世紀にシリアに支配されていたユダヤ人の独立運動の指導者マカベウスのユダを扱ったもので、スコットランドのウィリアム公が僭主チャールズ=エドワードに勝利したことを祝して、ウィリアム公に献呈されたという。
 今回CDを紹介しようとしたら、なんと手元にはないことがわかった。FM放送をエアチェックしていたころ、ヴェルナー指揮プフォルツハイム室内管弦楽団、ハイルブロン・ハインリッヒ・シュッツ合唱団による演奏をカセットテープで聴いていただけで(にしても、嫌がらせのように長い名前だ)、その後は手元にこの作品はないままである。

780268c1.jpg  ちなみに私が知っている“勇”がらみの作品としては、ボロディン(Alexander Borodin 1833-87 ロシア)の交響曲第2番ロ短調(1869-76/改訂'79)がある。この曲が「勇者」という題名で呼ばれることがあるためだ。
 第1楽章の勇壮な主題から、ボロディンがそう名付けたとも言われているが、はっきり言って、曲そのものとは関係のない邪魔なニックネームだろう。この名があまり一般化していないのが幸いである。

 この曲については、ゲルギエフロジェストヴェンスキーなどの演奏を取り上げたことがあるが、本日はガンゼンハウザー指揮CSR(チェコスロヴァキア放送)交響楽団による演奏をご紹介。
 非常にあっさり系の演奏で、サクサク進んでいく。褒め言葉を使うならば、都会的。ロシア民族楽派の音楽はダサクて重苦しくてちょいとお肌に合わないわ、って方には超お薦めである。一方で、あの土臭さがいいのさ、って人には(私はこちらに所属している)物足りないかもしれない。
 1989録音。ナクソス。1枚に第1番から未完の第3番までが収められている。

 そうですねぇ、あとアタイが聴いたことがあるのは、パーセル(Henry Purcell 1659-1695 イギリス)の「ヨークシャーの祝祭の歌『その昔、勇者は故郷にとどまるを潔しとせず』」Z.333(1690)ぐらいでしょうか……
 こちらの曲は、ピノック指揮イングリッシュ・コンサート他によるCDを、ごくたまに聴いてます。

 で、私はたまに「♪勇敢な少年、バビル2世ぃ~」ってカラオケで歌うこともあります。