492dee12.jpg  もう3週間ほど前のことになるだろうか。

 土曜日の昼間、家の中でただ独り番犬のようにソファに寝そべっていたら、電話が鳴った。

 発信者の番号は見たことのないもの。
 だからすっごく無愛想に出ると、カナリア、の店員のような声で「生地は最低50cm単位でしか切り売りできません」という怖い言い方ではなく、うがいしたてのウグイスのような美しい声で、「こちら〇〇でございます」と某大手通信会社の名を語った(正確には、某通信会社の代理店と言った。それとカナリアっていうのは札幌の老舗の手芸店)。

 皆さんも経験があるだろうが、こういう人って芸術的なリズムの持続によって、こちらに口をはさむ隙や、電話を切るタイミングを与えない。いくらこちらで「ストップ!」とばかりに、受話器を持っている反対側の手で指揮棒を横に振ったところで通用しない。

 で、何とか「い、い、いえ、結構です」と言うタイミングを見計らっていたのだが、シャワートークを耳に入場させているうちに、なんとなく興味がわいてきてしまった。
 そういえば爪に、いや、妻に「最近はインターネットの料金が下がってきているというのに、うちは見直す気はないのでしょうか?」とレンホウのように言われていたことも思い出した。

 でも、アドレスが変わるのは面倒だし、だいいち自分のブログに多大な影響を及ぼす。過去の偉大なる粗大遺産が失われる危機に直面することになるだろう。
 とはいえ、けっこう安くなりそうだし、スピードも速く、回線端末機器の利用料もかからないという。
 どうやら救いの手があるようで、ブログにしても、メルアドにしても月額262円で現在のOCNのを継続利用できるという。

 彼女の言葉の間に八分休符が挟まったとき、私は勇気を奮って言葉をはさんだ。

 「詳しいパンフ、送ってください」

 こうして、私は住所まで彼女に教えてしまった。

 その4日後くらいだったろうか。
 封書が届いた。
 中身は“bvひかり”(仮称)のパンフレットであった。

 さて、詳しく現在契約中の“OCN光 with フレッツ”と“bvひかり”の月額を比較してみた。

 光回線とプロバイダー料は、OCNが5,565円。bvひかりは5,460円。
 現在かかっている屋内配線と回線終端機器の利用料と、無線LANのカードとひかり電話対応機器使用料が1,755円が、bvひかりではゼロ。
 ひかり電話の基本料とナンバーディスプレイはどちらも同額なので、ここまでで1,860円下がることになる。

 一方、増高要因はOCNのメルアドやブログ人を継続するためのバリュープランに加入するために、月262.5円かかる。263円としてその分を加味しても、月1,597円下がる。

 ただし、bvひかりでインターネットを無線LANで利用するには、市販品の無線LAN機器を購入しなくてはならい(一時的な支出で収まるけど)。
 bvひかりの方が速度が速く、費用も安い。
 いろいろな移行がめんどくさいけど、悩むところだ。いや、私の気持ちはbvに傾きつつあった。

 パンフが届いてから3日後。曜日はまたも土。
 私は前回とまったく同じように番犬ごっこをしていたところに電話が来た。

 彼女だ!

 相変わらず丁寧かつ美しい声。この人が美人じゃないなんてありえないという印象だ。
 彼女は言う。
 「パンフレットは届きましたでしょうか?」
 「ウゥ~ッ、ワンッ!」 ←「はい」の意。
 「先日MUU様は無線LANのことを心配しておられましたが、その後、今月にご契約していただいた方に限り、無線LAN機器を無償で提供するキャンペーンを実施することになりました」
 「無償で提供……ですか?」
 「ええ。つまり、ただであげちゃうってことです。今月限りですが」
 私が時間的ストレスに弱いということを知っているかのような攻め方だ。今月中か……。

 でも、これは美味しい話だ。昼寝から目覚めたら極太の骨が目の前にあったようなものだ。
 「きゃん、ウウウ~、キャイン、ワン!」
 つまり、もう一度詳しく検討して明日私から電話すると彼女に伝え、電話を切った。彼女の名前がサカガミさんだということも知った。

 その夜、妻にこのことを報告すると、「月1,500円も下がるのはどでかすぎる。変えるしかない!」と叱咤激励された。さすが、近所のスーパーよりも50円安い洗剤を、遠くの店にガソリンを1リッター使って買いに行くだけある。

 しかしである。
 ここで私はある報告をした。

 現在ひかりTVも契約している(基本コース)。私はTVを観ることがほとんどないが、妻はファイターズのファンでGAORAを非常によく見ているのだ。
 しかし、bvひかりの映像サービスではGAORAはサポートされていない。
 ファイターズを優先的に中継するチャンネルもない。

 OCNひかりTVの月額は2,625円。チューナーはTVに最初から内臓されているので必要ない。
 一方、bvひかりの映像サービスは基本コースで1,539円。しかしこれに機器レンタル料が毎月525円かかるので、合計2,064円。差は561円。

 先ほどの分と合わせると、bvの方が2,158円も下がる計算になる。
 が、なんせGAORAを観ることができなくなる。

 では、GAORAだけスカパーと契約したらどうなるか?
 スカパーの利用料で1,500円くらいになる。この1チャンネル狙い撃ちでも。
 となると、現在の契約とbvひかり+スカパーとの差は600円くらいまで縮まってしまう。
 しかも、さらにスカパーを契約するのも面倒だ。

 ということで、今回は見送ることにした。
 検討会座長の妻としては英断ともいえる判断だった。

 次の日、私は「嫌だなぁ。かけたくないなぁ」と思いながらも、サカガミさんに電話をかけた。

 別に私は悪いことをしたわけじゃないが、とっても申し訳ありません、はい、GAORAが、ええ、妻がファイターズが好きで、いえスカパーも考えたんですが、御社のはたいへん安くて魅力的なのはよく理解できました、はい、でも、今回は見送るということで、という言い訳に終始した。

 丁寧さは失わなかったサカガミさんだが、最後はタテガミが怒りで立ったんじゃないかと思われるような冷たい声色に変わっていた。
 そして、蜜月のころはあんなに電話を切るのが惜しそうにしてたのに、今回はあっさりと切られた。「またよろしくおねがいします」という儀礼的な挨拶とともに。

 でも、正直なところ私はほっとした。
 いくら継続使用できるとはいえ、ブログがらみでいろいろ手続するのは面倒だし、なんかかんだ言ってOCNがこれだけのシェアを維持しているのはそれなりの理由があるからだろう。

 それに、Bフレッツ+OCNの料金とbvひかりの料金自体は100円程度しか変わらないことを今回知った。高くついているのはNTTサイドの回線終末機器とかひかり電話の機器の使用料によるもの。NTTがこれを下げてくれればよいのですが……。他社に追い抜かれないためにも、NTTさん、下げてみません?

 じゃあ今日はJ.シュトラウス2世(Johann Strauss Ⅱ 1825-99 オーストリア)のポルカ「雷鳴と稲妻(Unter Donner und Blitzen)」Op.324(1868)。「雷鳴と電光」と呼ばれることもある。

 理論値だけを観ると、Bフレッツとbvひかりでは、bvひかりの方が10倍速い。
 つまり、ろうそくの灯の光と稲妻の光の違いぐらいありそうだ(*1)。
 とはいえ、PCの性能や、それ以上に無線LANでの使用という速度へのマイナス要素によって、果たしてどこまで速くなるのかは疑問が残る。

 それはともかく、「雷鳴と稲妻」はシュトラウスの数あるポルカの中でも最も有名なもの。雷鳴を表す大太鼓、稲妻を表すシンバルが、ドカドカ、ジャンジャン鳴り響き、実に楽しい。

 今日はスウィトナー指揮シュターツカペレ・ドレスデンによる演奏を。
 なんだか軽快感が足りず、今一つノリの良くない感じの演奏だが、逆に「J.シュトラウスの曲ってしっかりしてて、音楽性が高いんじゃん」ということを気づかせてくれる。
 1979録音。ドイツ・シャルプラッテン。

  *1) とはいえ、光速度自体には違いがないことはもちろんである。