939209d5.jpg  今年のPMFのメイン・コンサートは「ルイジのマーラー」という謳い文句の(Kitaraでの)最終公演だった。

 プログラムは(マーラーの)「リュッケルトの詩による歌」と交響曲第1番だった。

 この演奏会、私はチケットを購入することができたのだが、直前になって行くことができなくなり人に譲ったという、聞くも涙、話すも涙の裏話がある。
 その後の新聞評では「ひどく聴衆が熱狂した」とあって悔しい思いをしたかと思えば、「あれはねぇ」というブログでの評もあって、「んじゃ、行かなくてよかった」と、イソップの「すっぱいぶどう」のキツネのような気分にもなった。

 非売品ながら、あるツテからその日の演奏会のCDを聴くことができた。
 2枚組のCDで、1枚目には7月23日のKitaraでの公演が収められている。演目はマーラーの「亡き子をしのぶ歌」とブラームスの交響曲第2番。
 2枚目は、7月30日のkitara最終公演で先に書いた、リュッケルトと第1交響曲である。
 両日ともバリトン独唱はトーマス・ハンプトン、ルイジ指揮PMFオーケストラ&PMFファカルティである。

 その交響曲第1番。
 非常に若々しい演奏で、またルイジはテンポに多めの変化をつけるが、そのアクセルとブレーキに若きオーケストラもしっかりと反応している。
 音も非常によく出ている。
 これは会場にいた人はよほどのひねくれ者でない限り、音の渦に飲み込まれ、興奮し、熱狂せずにはいられなかっただろう。実際、曲が終わると同時に叫び声と拍手がわれんばかりである。
 私もそうなっただろう。
 でも、CDで聴くとハテナ?というところがけっこうある。
 まず、全体的に軽い。これは音が軽いのではなく、作り上げられた音楽に深みが乏しい。一本調子と言った方が近いかもしれない。
 第2楽章はちょいと陽気さが強すぎないかいって感じ。まぁ、楽しい船出ってことからすれば、こういうのがあってもいいんだろうけど。
 ルイジのイタリア人気質が出たのか?「フニクリ・フニクラ」を思い起こしてしまった。
 第3楽章は全体的にテンポが速め。これもちょっと……
 第4楽章は、お客様がお望み通りの炸裂。さすがヤング・パワー!けど、どこかバカ騒ぎっぽい。

 ただし、先ほども書いたように、ホールでこれを聴いていたら興奮するのは必至。ホールを出た後、気がついたらみんなマッサージ機の契約書を持たされていた、ってことがあるくらい空気に飲まれてしまっただろう。

 でも、なんとしても行けばよかったかな……
 何年か前だったか、やはりルイジが振る最終公演の「幻想交響曲」を、直前になって行けなくなったことがある。
 そう、実は私はルイジを生で聴いたことがないのだ。生ルイジを見たことがないのだ。

 彼とは、どーも縁遠いような気がする。

 今年のPMFオーケストラは、ウルバンスキ指揮の公演1回しか聴かなかったが、そのときはフェスティバルが始まったばかりというものあったのか、特に各人の聴かせどころが多いボレロがさんざんだった。“のだめ”で千秋がボレロを振った場面を再現してるかのようだった(最後に打楽器奏者が転ぶことはなかったが)。
 しかし、このマーラーの第1番を聴く限りでは、例年ほどじゃないまでもオケの水準は高いと思った。
 ウルバンスキの公演から20日くらいでこんなにレッスン効果が現われるんだなぁ、と感心してしまった次第。

 2011PMFは福島の原発事故の影響から開催が危ぶまれた。ウルバンスキのコンサートも、当初はアルティノグルが振る予定だった。
 しかし、来日中止となったアーティストはわずかで、無事開催にこぎつけたのは、事務局サイドの目に見えない努力の賜だと思う。