荷物が届いたのは火曜日の朝のことだった。
 こちらに来ていた妻がそれを受け取った。

 その荷物は長男からだったで、開けてみると、それはワイングラスだった。

c0eb0022.jpg  この春就職した長男坊とは、その前日、月曜日に話す機会があった。
 初めての一人暮らし。アパートでの電気の関係でわからないことがあって、「教えてほしいことがある」と電話が来たのだった。

 しかし、もともと口べたなところがあって、こちらには状況も聞きたいこともなかなか伝わって来ず、いらいらしてくる。
 奴は奴で、人に聞いておきながら、伝わらないことにいらいらし生意気な口ぶりになる
 
 こうなると、こっちの語気も荒くなる。
 悪循環だ。

 まさか勤め先でもこんな話し方や態度をしているんじゃないだろうな、と心配になる。と同時に、親として育て方は正しかったんだろうかと、いまさらどうしようもないことながら不安になる。

3da17f02.jpg  勤め先がある街の百貨店から送られてきたその荷物の伝票の受注日には日曜の日付が書かれていた。
 あのいさかいのようなやりとりを電話でした前日に買っていたのだ。

 そして、伝票に手書きされた小さくて子どもっぽい文字を見ると、その文字から新しい環境で寂しい思いや苦労をしているんだろう、すごく疲れているんだろうというのが伝わってくるような気がする。慣れるまでは大変だろうけど、踏ん張らなきゃだめだ。親としてはそう心で応援するしかない。
 実は私も新たな環境にはなかなかなじめないタイプだから、長男の状況は理解できる

 メッセージを書いたメモは入っていなかった。
 品物だけだ。
 でもわかる。
 彼は彼なりに、初めての給料で親への感謝の気持ちを表してくれた。

 でも、こんなに実用的じゃないものはない。
 使って割ってしまったら困るからだ。

 その夜耳にしたコープランドの「アパラチアの春」。その第1曲のとてもゆっくりしたこの音楽が、実に優しげに心に染み入った。