f9d62039.jpg  ある日の夕方。

 なかなかの腹ペコ状態でスーパーの惣菜コーナーに行き、しかも「20円引」とかと赤文字で書かれた黄色いシールがはられているのを見ると、ふだんでは手に取らないようなものをレジに持って行ってしまったりする。
 空腹ホルモンが私の冷静な判断を阻害するのだ。

 先日は焼いたフランクフルトが2本入ったパックを買ってしまった。20円引きで160円。
 う~ん、お得ぅ~!……っか?

 いざ食べようとしたとき、見事にまっすぐで姿勢の良い、しかし斜めに8本の切り傷を負ったフランクフルトを目にした私は、何でこんなものを買ってしまったんだろうと自己嫌悪に陥った。

 いや、フランクフルトが悪いとは言わない。が、家で食べるなら、そりゃ便利ではあるけれど、ハム・ソーセージ売り場で袋に入った、身元のはっきりしたフランクフルトを買えばいいのだ。
 そして、自分で好きな数だけナイフで切れ目をつけ、フライパンで焼けばいいのだ。お祭りじゃあるまいし、そのまま立ち食いするわけじゃないのだ。

 そして、何よりも問題なのは、その“身元”だ。
 こういうフランクフルトはたいてい不味い。
 察するに、ポーク100%じゃないようだ。鶏肉か何かを混ぜる。そういう、まぁ、元値がお手頃な製品なのだ。だから、ちょっと変わった味がする。そして、やけにまっすぐな形をしている。

 となると、ケチャップやら洋辛子を必要以上につけて味をごまかしながら食べることになるのだが、ほら言わんこっちゃない、ズボンにケチャップは垂らすは、袖口が辛子色に染まり、すぐに気付かないもんだから、それがシャツのあちこちに飛び火して、ズボンに付いたら危険な誤解を招きかねないような状況に陥ってしまうのだ。

 ポークに何かを混ぜる。そんなフランクフルト。

 そこで今日はマゼールが指揮したフランク(Cesar Franck 1822-90 ベルギー)の交響曲ニ短調(1886-88)。

 長年聴いてきたミュンシュやジュリーニの演奏にはどこかノリきれず、クレンペラーの演奏で「おっ!」と思ったこの曲。この決して派手とは言えないのに、最近気が付くとこの曲を鼻歌ってる自分がいた。きっと、私が派手でなく謙虚な性格だからだろう。でも、鼻歌にはひどくふさわしくない曲のような気がする。

 そこで安くなっていた混ぜる版、ならぬマゼール盤を購入してみた。
 先日バルトークの「狂詩曲」で紹介したのと同じディスクである。

 曲については上記の過去記事をご覧いただくとして、マゼールである。オーケストラはクリーヴランド管弦楽団。

 いやぁ、ギラついてますわ。期待通りです。
 テンポはよく動かすし、感情の起伏が激しい。クレンペラーは厳しくておっかない爺さんを連想させたが、マゼールの演奏は喜怒哀楽が激しいエロ爺を思い起こさせる。いや、この曲がここまでエロティックに聴こえるとは!
 でも、好き嫌いは分かれるかもしれない。
 私は好きだ。聴いていて体が火照ってきそうだけど。
 それにしても、オーケストラが良く鳴っている。

 1976録音。デッカ。

 別な日のスーパーの総菜売り場。
 やはりフランクフルトが売っていたが、2本で200円。
 誇らしげな曲がり具合に、純情そうなピンク色。
 あれは本物のフランクフルトだ。
 でも買わなかった。なんとなくね。