このところ、SWV.だのHWV.だのといった作品番号を登場させている。
 前者はシュッツの、後者はヘンデルの作品についている番号である。

 クラシック音楽の作品には、多くの場合作品番号がついている。
 Op.(Opus)ってやつだ。これは、作曲順につけられるのが普通だが、楽譜の出版順になっていることもある。

 また、作品番号がつけられていない作曲家も少なくない(これは作曲家自身がちゃんと管理していないことによる)。
 そういう場合には、後年になって音楽学者などが整理して固有の番号をつけてくれる。これはとってもありがたいことだ。そしてかなり大変な作業だ。自分のイニシャルを使うのも無理もない。そして私たちは、その功績に感謝しなきゃならない。

 そこで今日はそういった各作曲家に固有につけられている番号について、主要なものをご紹介してみたい。

 ・AV. R.シュトラウスの作品で、Op.番号がないものにつけられた番号。アソウによる「作品番号なしの作品」の目録番号。AVって聞くと、なんか別なことを考えてしまいません?

 ・B. : ドヴォルザークの作品。ブルクハウザーによる目録(1967出版)の番号。なお、ドヴォルザークの作品の多くにはOp.もついている。

 ・BWV. : J.S.バッハの作品。シュミーダーによる「バッハ作品主題目録」(1958出版)の番号。BWV.は、Bach-Werke-Verzeichnisの略。ただし、番号順は作曲年順ではなくジャンル別。教会カンタータ第1番の「暁の星のいと美しきかな」がBWV.1である。
 BWV.のことを「ベーヴェーファー」と読んでいる人がいたが、たぶん「ビーダブリュヴイ」で構わないと思う。

 ・Bux.WV. : ブクステフーデの作品。カルルシュテットによる作品総目録(Buxtehude-Werk-Verzeichnis/1974)による。

 ・D. : シューベルトの作品。ドイッチュによる「Thematisches Verzeichnis seiner Werke in chronologischer Folge」(1978新版出版)の番号。1950年の旧版から番号訂正があった作品についてはカッコ書きで旧版の番号も記されることが多い。

 ・D. :タルティーニのヴァイオリン協奏曲につけられた、ドーニアスによる番号。

 ・F. : ヴィルヘルム・フリーデマン・バッハの作品。ファルクによる(1913出版)。

 ・F. : ファンナ(A.Fanna)ヴィヴァルディの作品。ファンナによる。ヴィヴァルディには他にP.、RV.の番号がある。Op.番号のついた作品もある。

 ・FS. : ニールセンの作品。 Fog & Schousboeによる目録(1965出版)の番号。

 ・G. : ボッケリーニの作品。ジェラールの作品目録(1969出版)の番号。

 ・G. : トレルリの作品。ギーグリングによる作品目録の番号。

 ・H. : ベルリオーズの作品につけられているホローマンによる番号(1987)。なお、ベルリオーズの作品の多くにはOp.番号もついている。

 ・H. : カール・フィリップ・エマヌエル・バッハの作品。ヘルムによる作品目録(未出版)の番号。C.P.E.バッハには他にWq.(ヴォトケーヌ)番号がある。

 ・H. : M.C.シャルパンティエの作品。 ヒッチコックによるカタログ(1972出版)の番号。

 ・H. : ホルストの作品。I.ホルストによる作品総目録(1974)の番号。

 ・Hess. : ベートーヴェンの作品。ヘス編による作品目録(1957)の番号。

 ・Hob. F.J.ハイドンの作品。ホーボーケンによる作品目録(1957出版)の整理番号。なお、Op.番号がついている作品もある。

 ・HWV. : ヘンデルの作品。バーゼルトによる。なお、ヘンデルの器楽作品にはOp.1からOp.7の作品番号がある。

 ・J. : ウェーバーの作品。イェーンスによる(1871)。

 ・K. : ブゾーニの作品。キンダーマンによるブゾーニ作品目録の番号。

 ・K. : ドメニコ・スカルラッティの作品。カークパトリックによる番号。他にL.番号もある。

 ・K. : W.A.モーツァルトの作品。ケッヘルによる作品目録(1862初版)の番号。作曲年順に番号がついているが、その後の研究で作曲年が変わると修正され新たな番号がつけられている。現在は第6版まで出ているが、通常はもともとのケッヘル番号と、そのあとにカッコ書きで第6版の新番号を記すことが多い。また、初版以降に新たに発見された作品については「K.追加」番号がつけられているが、その番号は年代とは関係ない。疑作、偽作とされている作品はC.番号がつけられる。さらに器楽曲の通し番号は通常、ブライトコプフ・ウント・ヘルテル社による旧全集の番号が用いられる。 なお、モーツァルトの生前に出版された作品でOp.番号を持つものもOp.17ぐらいまであるというが、重複したり欠落したりしている。

 ・L. : ドメニコ・スカルラッティの作品。ロンゴによる。なお、L.S.はロンゴ追加番号。D.スカルラッティの曲には、他にK.(カークパトリック)番号がある。

 ・M.S. : パガニーニの作品。モレッティとソレントによる整理番号。

 ・P. : ヴィヴァルディの作品。パンシェルルによる。ヴィヴァルディには他にF.、RV.の番号がある。Op.番号のついた作品もある。

 ・RV. : ヴィヴァルディの作品。リオムによる。ヴィヴァルディには他にF.、P.の番号がある。Op.番号のついた作品もある。

 ・S. : リストの作品。グローヴ音楽事典第5版(1954/61補巻)でのシャルルによる整理番号。

 ・S. : フンメルの作品。ザックスによる「フンメルの作品チェック・リスト」(1973-74)による番号。

 ・SWV. : シュッツの作品。ビッティンガーによるシュッツ作品目録(1960出版)の番号。Op.番号をもつ作品もある。

 ・Sz. : バルトークの作品。スールーシによる作品目録(1956出版/1965改訂)の番号。バルトークの作品にはOp.番号のついているものもあるが、Op.番号には1890年から始められたもの、1894年からのもの、1904年からのものの3つが存在している。

 ・T. : ヨハン・クリスティアン・バッハの作品。テリーによる作品目録(1967出版)の番号。

 ・WAB. : ブルックナーの作品。グラースベルガーによる「ブルックナー作品目録(Werkverzeichnis Anton Bruckner)」(1977出版)の番号。ジャンル別の通し番号。
 
 ・wo. : クレメンティのOp.番号のない作品。タイソンによる「作品番号なしのカタログ」(1967)の番号。

 ・WoO. : ベートーヴェンのOp.番号のない作品。キンスキーとハルム編の作品目録(1955)による「作品番号なしの作品(Werk ohne Opuszahl)」の番号

 ・Wq. : C.P.E.バッハの作品。ヴォトケーヌの作品目録(1905出版)の番号。C.P.E.バッハにはヘルムによる番号H.もある。 
   
 ・V.~Z. : アイヴズの作品。新グローヴ音楽事典のジャンル別分類番号。

3edb5c19.jpg  じゃあ、Op.番号がついておらず、かつ、別な整理番号がついている作品の例として、今日はなんとなくリスト(Franz Liszt 1811-86 ハンガリー)の「死の舞踏(Totentanz)」S.126(1849/'53,'59改訂)を。

 ピアノと管弦楽のための作品で、作曲が構想されたのは1838年。グレゴリオ聖歌の「怒りの日(Dies Irae)」によるパラフレーズである。
 「幻想交響曲」の終楽章やラフマニノフの「パガニーニの主題による狂詩曲」など、多くの作曲がそのメロディーを自作に引用している、あの「怒りの日」を用いた、これまた代表的な作品の1つ。

 リストはピサの墓所カンポサントにある「死の勝利」という壁画に感銘を受け、作曲した。曲はハンス・フォン・ビューローに献呈されたが、こういう成りたちの曲を贈られて、複雑な気持ちにならないのかしらん?

 それと、まったく個人的なことだが、墓所という言葉を聞いたり見たりすると、「藤野聖山園」って歌が流れるのは私だけか?そこは永代墓所……。恐るべし、TVCMの刷り込み効果(何年も同じコマーシャルが続いてるってこともあるけど)。

 「死の舞踏」はリストの作品中でも有名なものだが、いきなり「怒りの日」のメロディーがグァーンと出てくるインパクトが強い作品。あまりに露骨で、ちょいとやぼったい感じもするが……

 上に書いたように、リストの作品にはS.番号が付くが、このS.は分類を手がけたイギリスの作曲家ハンフリー・サールの名前に由来する。リストの作品には他に、リスト博物館館長のペーター・ラーベによるラーベ番号(R.)もあるが、よく使われているのはS.番号である。

 「死の舞踏」の演奏だが、ここでは「レリオ幻想曲」のときも紹介した、ベロフのピアノ、マズア指揮ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団の演奏をあげておく。
 1977-80録音。EMI。

 このほか、Op.という作品番号も、他者による番号も作品についていない作曲家もいる。
 有名どころでは、マーラーやドビュッシー、ラヴェル、プッチーニ、ヴェルディ、ロッシーニ、ワーグナー、コダーイetc,etc……
 でも、番号がなくてもあんまり不自由してないのが、不思議と言えば不思議。

 聴いたことはないが、ベリオの作品に「Opus number Zoo」(1970)というのがある。この邦題は「作品番号獣番」。谷川俊太郎氏によってつけられた(訳された)日本語タイトルだが、これは見事な訳だと思う。

 ところで、HMV.0というのはおわかりになるだろうか?

 H.MUUSANのヴァイタリティーはゼロであるって意味である。