ポール・オースターの「偶然の音楽」(新潮文庫)。
オースターという作家は知らなかったが、タイトルにひかれた。
表4(裏表紙)に書かれた「妻に去られたナッシュに、突然200万ドルの遺産が転がり込んだ。すべてを捨てて目的のない旅に出た彼は、まる一年赤いザーブを駆ってアメリカ全土を回り、〈十三カ月目に入って三日目〉に謎の若者ポッツィと出会った。〈望みのないものにしか興味の持てない〉ナッシュと、博打の天才の若者が辿る数奇な運命。現代アメリカ文学の旗手が送る、理不尽な衝撃と虚脱感に満ちた物語」と書いてある。
どう考えても音楽とは関係ない内容だが、それでもタイトルにひかれて買った。
いま、半分ほどまで読み進んだ。
これまでに出てきたクラシック音楽に関係する部分は、
① ナッシュが独りピアノを弾く箇所。
がらんとした壁を聴き手に長いさよならリサイタルを行なった。数十曲あるお気に入りを、一つひとつ弾いていく。クープランの「神秘の障壁」からはじめて、ファッツ・ウォーラーの「ジルバ・ワルツ」まで、指が麻痺して弾けなくなるまで鍵盤を叩きまくった。
「神秘の障壁(Les baricades mysterieuses)」はクープラン(Francois Couperin 1668-1733 フランス)の「クラグサン曲集第2巻(Pieces de clavecin second livre)」(1717出版)の第6組曲(Ordre No.6)の第5曲。
が、私は聴いたことがない。
ウォーラーという名前も知らない。おそらくこちらはクラシック音楽ではないのだろう。
② カーステレオでナッシュが聴いた音楽の記述。
運転しながら、バッハ、モーツァルト、ヴェルディのテープをえんえん聴いていると、まるで自分のなかから音が湧き出てきて風景を浸しているような、可視の世界を彼自身の思考の反映変えているような、そんな気持ちになってきた。
バッハとモーツァルト。これは自然な感じがするが、そこにヴェルディの名が出てくるのが唐突な気がする。
作者はヴェルディが好きだったのだろうか? ヴェルディ(Giuseppe Fortunino Francesco Verdi 1813-1901 イタリア)は、イタリア・ロマン派歌劇の最大の作曲家である。
歌劇「アイーダ」のなかの行進曲は、サッカーの応援歌に替え歌されてもおり非常にポピュラーだ。
今日は有名なアリア「女心の歌『風の中の羽のように』(La donna e mobile qual piuma al vento)」。歌劇「リゴレット(Rogoletto)」(1851初演。ヴェネツィア。3幕4場。台本:V.ユゴーの「歓楽の王」からF.M.ピアーヴェ)。
最愛の娘ジルダをマントヴァ公爵に奪われた宮廷道化師のリゴレットは、公爵から娘を取り戻し、復讐をすべく刺客スパラフチーレに公爵の暗殺を依頼する。しかし彼の妹のマッダレーナも公爵の手管にかかってリゴレットの計画を阻み、身代わりになったジルダが殺される、という皮肉な結末の物語。
このアリアは、第3幕でマントヴァ公爵が「女心は風の中の羽のように移ろいやすいもの」と歌いもの。
妻に去られたナッシュは自虐的にこの歌も聴いていたのかもしれない。
CDはオムニバス盤をご紹介。
有名オペラのアリア集。
「女心の歌」の演奏は、チオーニのテノール独唱、サンツォーニョ指揮ローマ聖チェチーリア音楽院管弦楽団。1961録音。全曲盤からのピックアップ。
デッカ。
新館入口(2014.6.22~)
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