ac7ee3b1.jpg  火曜日。

 私と岸和田さんは、前日のラーメン屋の苦い思い出を引きずったまま、昼食へと出かけた。
 が、この日の岸和田さんは意思を固めていた。
 昼のチャイムが鳴ると同時に「インデアン行こう」と私に言ったのだった。

 いんであんいこう……

 このシチュエーションでなければ、アメリカにおいてインデアンの衰勢がそれ以降どのようになったのかという歴史的考察を求められているかと思うところだが、さすがにこのときは私もすぐい岸和田さんが「インデアンにカレーを食べに行こう」と私を勧誘していることがわかった。

 「いいですよ!」

 私は持ち前のさわやかな笑顔で彼に応え、前日の悪天とは打って変わって、晴天で今夏いちばんの暑さだという外へと繰り出したのだった。

 折しもこの日は昼から“平原まつり”の開幕。
 通りは車両通行止めとなっており、このクソ暑い中、お気の毒にどこかの高校の吹奏楽団がオープニングを飾る演奏を行なっていたが、強い日ざしが金管楽器に反射している様は、ただでさえ暑いのに、私にビーム的暑苦しさをいやでも感じさせると同時に、あの子たち唇熱くないのかなと余計なことを思ったりもした。
 が、そんなことに見とれている場合ではない。
 目指すはインデアンだ。

 インデアンに行くと、なんということだろう、長蛇の列だ。

 祭りで人が繰り出している、前日の花火大会が1日順延になりこの日の夜まで観光客が滞在し続けている、私たちのようにふだん行かないのに急にカレーが食べたくなる人が今日に限って多数いる、といったことが原因で、この暑さにもかかわらず老若男女が汗を流しながら歩道に列をなしていたのである。これでカレーを食べたら、体中の水分がすべて汗になって体外に流出してしまうのではないかと、ひとごとながら心配したほどだ。

 で、前日のラーメン屋のときと同様、根性に乏しい私たちは「別なとこにしよう」ということで、飲み屋街の方へあてもなく歩みを進め、ふだんなら夜にしか訪れない飲食店ビルの1階に喫茶店の看板を見つけ、そこに入った。
 インデアンの列と違い(と書くと、インディアンが行列しているようだが)、こちらは適度な客の入り。すぐに座れた。

 この日の日替わりランチは、豚肉の炒め物、焼き魚(メロ)、目玉焼き(ひとつ目)、マカロニサラダ(魚肉ソーセージ入り)、キャベツの千切りというもので、直前までこの店にカレーがあったならぜひとも注文しようと意気込んでいた私も、あっさりとあたかも昨夜から決めていたかのように「日替わり!」と注文した。

 週刊ポストのグラビアを丁寧に拝見する間もなく、ランチが運ばれてきた。
 はっきり言って美味しかった。
 これらのおかず群も美味だし、ごはんも美味しく炊けていた。それにボリューム満点。
 岸和田さんはご飯を1/3ほど残したほどだ。私は完食したが、これが近年の体重増加の要因であることは間違いない。
 そして、これにドリンクが付く。
 私はアイスコーヒーを頼んだが、「ノンシュガーと甘みがあるのとどちらにしますか?」と聞かれ、「甘いやつ」と答えた私は、やはり減量作戦の入口から過ちを犯していると言わざるを得ない。

 そして、これで750円である。
 しつこく言うが、前日の味噌ラーメンはかなり待たされた挙句、ドリンクもマカロニサラダも付かないのに780円である。
 こちらは立ち上がれないほど私を満足させておいて750円である。

 そんなこんなで、満たされたこの日のうちに帰省のため移動。
 
 そして、15日・水曜日の出来事。

 大荒れの天気になるという予報を受け、予定を1日早めて墓参りに。
 墓参りそのものには皆さんに報告するに値するワクワクするような心踊るエピソードはなかったが、そのあとに寄ったコープさっぽろの魚売り場で、ちょいと見逃せないことがあった。

 そこで聞き覚えのあるメロディーが耳に飛び込んできた。

 それはドヴォルザークの「ユモレスク」だった(もちろん、あのいちばん有名なやつである)。
 冷蔵ケースの横に置かれたラジカセからそれはエンドレスで流れていたが、それは歌となっていた。
 ラジカセに近づき、歌詞を聞きとる。
 
5cb1acd8.jpg  「♪ いかいかいかいか、いかいかいかいか、まえはまづくりだよぉ~」

 元気のある、そして活発な感じでおねえさんが歌っていた。
 いかにもウキウキしてくるリズムと声。

 売り場にたたずみ、歌詞の内容を把握する。
 つまり、漢字で書けば「♪ 烏賊烏賊烏賊烏賊、烏賊烏賊烏賊烏賊、前浜づくりだよぉ~」であることがわかった。
 そして、そこには前浜づくりのイカの塩辛がかなり広くフェースどりされて並べられていた。

 この替え歌、アレンジは秀逸だ。
 試しにみなさんも歌ってみるといい。実に心を豊かにしてくれる。
 このあとも歌詞は続き、北海道産であることを訴えて再びイカイカと楽しげに歌いながら、ユモレスクのメロディーを忠実に再現していた。
 私はすっかり感心してしまい、買ってしまった。この前浜づくり・いか塩辛を。
 甘めの味付けでなかなか美味しかったですよ。148円だし。

 検索してみると、おぉ、コープさっぽろオリジナル。
 力も入るってわけだ。
 あの塩辛ユモレスクを考えた人、すばらしい!

 ドヴォルザークの「ユモレスク」はあまりにも有名だが、パデレフスキ(Ignacy Jan Paderewski 1860-1941 ポーランド)のピアノ曲「6つの演奏会用ユモレスク(6 Humoresques de concert)」Op.14の第1曲「古風なメヌエット(Menuet a l'antique)」も、ドヴォルザークには及ばないが有名だ(「メヌエット ト長調」として親しまれている)。

 そのパデレフスキだが、19世紀の末から20世紀にかけて世界各地で熱狂的な名声を博したピアニストである。そしてまた、彼は第1次大戦後にポーランドの首相も務めたことがあるのだ。
 名ピアニストで作曲もする首相……。かっこいいじゃありませんか!

 その首相のピアノ協奏曲イ短調Op.17(1888)。
 まず聴かれることのない曲ではあるが、なかなかの力作。
 非常にロマンティックで華麗、メロディーもなかなか素敵。
 それに、きっとかなりピアノのテクニックも要求されるに違いない。
 が、どこか決定的な魅力に欠ける。それがあまり聴かれないゆえんなのだろうが。
 白日夢にうっとりと浸りたいという傾向の方にお薦め。

 CDはフャルコヴァスカの独奏、ヴィト指揮ポーランド国立放送交響楽団のものを。
 1997-98録音。ナクソス。