4ba5f465.jpg  夕方にスーパーに行くと、いろんなものが値引きになっている。

 20円引きとか30円引きとシールが貼られてたり、20%引きとかっていうのもある。
 どういう基準でこういう引き方の違いになるんでしょうね?

 このあいだは、“サザエ”でおやきが半額になっていた。
 しかも残りは1パックだ(3個入り)。
 これを逃す手はない。
 でも、冷静に考慮すると、私は別におやきは食べたくない。
 半額という誘惑と、別に食べたくないし、という冷静というか当たり前の感情。
 結局買わなかった。
 食べたくないものをいくら半額だからと買ったって、なんのメリットもないもんな。
 でも、いまだ損した気分を引きずっているのはなぜだろう。

 さて、タワレコで半額セールと書かれたワゴンが出ていた。
 のぞきたかったけど、けっこう体格のいいおじさんがずっとワゴンを占拠している。
 私が近寄っても横に体をずらそうとしない。ちょっとずれてくれれば仲良く、もしくは相互無関心で2人で見ることができるのに、がんとして動かない。こういうおじさんっていったいどんな親に育てられたのだろう?奥さんはどんな人なのだろう。子育ては順調にできたのだろうか?
 そんなことをいろいろと考えざるを得ない。

 しばらくたってそのおじさんは忽然と消えた。
 いや、たまたま私が見ていないうちにどっかに行ってしまったんだろうけど、私にはワゴン前にたたずむ亡霊がお経を耳にしてボンッ!って消失したような印象を覚えた。

 やっと見ることができる。
 私は堂々とワゴン中央部に正対し、めぼしいものがないか探した。
 なお、言っておくが、その間ほかの客は来なかった。
 もし来たなら、私は気弱なウサギのようにピョンピョンと退散し、新たな客に探索の喜びを譲っただろう。

 そのワゴンで見つけたショスタコーヴィチ(Dmitry Shostakovich 1906-75 ソヴィエト)の映画音楽集。

 収録されているのは、以下の4作品でいずれも組曲版である。

 1. 「黄金の山脈(Golden Hills)」Op.30a(1931)
 2. 「司祭とその下男バルドの物語(The tale of the Priest and his workwr Balda)」Op.36(1933-35)
 3. 「コルジンキナの出来事(Adventures of Korzinkina)」Op.59(1940)
 4. 「愚かな小ねずみ(The silly little mouse)」Op.56(1939)

 1.はユトケヴィチ監督の映画。スコアが散逸してしまっていたものである。
 2.はプーシキン原作のアニメ映画のための音楽だが、映画は未公開に終わった。スコアが散逸していたが、1979年にロジェストヴェンスキーが一部をオーケストラ編曲した。
 3.はミンツ監督の映画。これもスコアが散逸。
 4.はツェハノフスキー監督の映画だが未公開。この曲もスコア散逸。

 ってことで、このCDに収められている曲は、どれもスコアが散逸してしまっていたもの。

 にもかかわらずこうやって演奏されているということは、散逸していたスコアがどこかの図書館なんかで見つかったのだろう。

 いずれも若き日のショスタコのはつらつとした音楽を聴くことができるが、半額で買えてよかった。実は通常価格のときもこのCDは何度も手に取り、頬ずりし、また棚に返していたのだ。私にしては珍しく、待ちの態度でいてよかった。
 って、こと言ってたら輸入CDなんて買い逃しちゃうんだよな。今回はラッキーだった。おぉ、偉大なる半額セール!
 
 演奏はムナチャカノフの指揮。管弦楽はベラルーシ放送交響楽団とステート・シネマトグラフィック管弦楽団。「コルジンキナ」ではベラルーシ国立合唱団が加わる。
 1997録音。DELOS。

 なお、ヴォルコフの「ショスタコーヴィチの証言」(水野忠夫訳:中央公論社)には次のような記述がある。

 一時、わたしはアニメーションに熱中していた。正確にいえば、才能あるアニメーション作家ミハイル・ツェハノフスキイに惚れこんでいたのである。わたしは彼を、わが国でもっとも才能あるアニメーション作家だと考えている。彼が忘れさられてしまったのは残念でならない。
 ツェハノフスキイのためにわたしは2つの小さなオペラを作った。これはアニメーション用の音楽とみなされているが、実際は、わたしの音楽をもとにした映画だった。この小さなオペラは、プーシキンの詩にもとづく「司祭と作男バルダの話」と「ばかな鼠の話」である。そこには音楽がふんだんに入っていたが、それがすっかりどこかに消えてしまったのも残念である。
(38p)

 上に書いたように、どういう事情かは知らないが、消えてしまっていたものが見つかった。消えてしまった体格のいいおじさんの行方は知らないが。
 どの曲もハチャメチャに近いノリ。映画音楽だからそれも必要なんだろうし、とにかく動的なんだけど、若気の至りとは言わないまでも、もしショスタコが存命中にこのスコアが見つかりましたって言われたとしたら、ちょいと公開するのをためらったんじゃないだろうか?

 これらのなかには、他の作品にも使われた素材やメロディーもあって、ショスタコの根っこのようなものが垣間見える。
 にしても、「黄金の山脈」にある、オルガン大活躍の曲は、「これショスタコが書いたの?バッハみたい」というもの。ショスタコとオルガンというのも珍しい。

 なお、ベラルーシ放送響による「黄金の山脈」については、他の演奏よりも音の混濁があり、録音がやや悪い。
 それより、ベラルーシって美女が多いそうですね。困ったなぁ←何が?