97b3b704.jpg  さ、クリスマスも終わったことだし、気持ちを切り替えて今日はお釈迦様にご登場願おう。

 釈迦の本名はゴータマ・シッタルダというと、中学の社会の時間に習った。
 が、今回Wikipediaで調べてみたら、ゴータマ・シッダッタとかガウタマ・シッダールタと書いてあって、私がとても苦手としていた社会科教諭が偉そうに私たち生徒に言い放っていた名前とはちと違う。

 にしても、あの先生はまったくもって変わっていた。
 足が短いというか、胴が長いのはともかくとして、いつも不機嫌で、歩きながらブツブツ言っていないことはなく、たぶん性格は意地悪だった。
 どういう老後を送っているのだろう?

 釈迦というのは釈迦牟尼の略。
 釈迦という名はシッダッタ(なんて入力しづらいのだろう)の部族もしくは国の名だという。また、牟尼(むに)は聖者の意味で、これらをポイント加算すると、釈迦牟尼は釈迦国(あるいは釈迦族)の聖者ということになる。

 一方、仏陀というのは仏の悟りを開いた人のことである。

 釈迦の誕生日は4月8日とされる。この日を花祭りという。

 にしても、イエスの誕生日にはニッポンの人たちもこんなに盛り上がって、美味しいものを食べたり、若い雌雄はイチャイチャしたりしているのに(聖夜ならぬ性夜という傑作な当て字をどこかで目にした。あぁ、トゥランガリーラ!)、キリスト教よりも身近な(はずの)仏教の開祖の誕生日は、なぜこれほどまで話題にならないのだろう?

 これは寺による宣伝が足りないか、それを商業ベースで利用しようという企業が現れないためと考えざるを得ない。
 たとえば、“スジャータ”なる商品を販売している会社が、“花まつりにはコーヒークリーム一気飲み!”キャンペーンを大々的に展開すれば、どんなことになるだろう?(スジャータというのは釈迦に乳粥を与えて命を救った娘の名である)。
 クリスマスにケーキがつきものなら、たとえば、花祭りには「切腹最中」だと、新正堂がキャンペーンを打ったらどんなもんだろう?
 クリスマスがチキンなら、たとえば、花祭りには豚まんは欠かせないと、蓬莱が豚まんバーレルを期間限定で販売したら、反響はいかがなものだろう?

 そんなくだらない妄想はさておき、伊福部昭(Ifukube, Akira 1914-2006 北海道)の交響頌偈(じゅげ)「釈迦(Gotama the Buddha)」(1989)。

 しかも、これまたバースディと関係している。伊福部のバースディ・コンサートのライヴなわけだ。

 伊福部には釈迦をテーマにした作品が3曲ある。

 最初に書かれたのは1953年のバレエ「人間釈迦」だが、これはスコアが失われている。
 次に書かれたのが、バレエ「人間釈迦」の素材を用いていると言われる映画「釈迦」(1961)のための音楽である。
 そして、3つ目となる交響頌偈「釈迦」はまた、映画「釈迦」の音楽をベースにしている。

 浄土宗東京教区青年会、東宝ミュージック、ユーメックスの委嘱で書かれ、1989年4月8日に行なわれた同青年会主催の「釈迦降誕会コンサート」で、小松和彦指揮で初演された。

 曲は3つの楽章から成るが、各楽章について、作曲者は次のように述べている。

 第1楽章「カピラバスツの悉達多」。
 「ヒマラヤ南麓の迦毘羅城で幸福な王子の生活を送っていた釈迦が、生老病死の四苦に覚め、悟りを求めて、深夜、王城を捨てるまでが描かれる」。

 第2楽章「ブダガヤの降魔」
 「この章では、インドの聖地、ブダガヤで永い年月、苦行と瞑想を続け、幾多の煩悩と闘い、終に、悟りを得るまでが描かれます。男声、女声、混声の順で歌われる言葉は、パーリ語仏典に依るもので、その総てが『煩悩』を示す異名同義語です。13の言葉が用いられますが、女声の箇所は霊肉煩悶を暗示しています」

 第3楽章「頌偈」
 「長い苦行の末、悟りに達した釈迦を讃える頌歌で、歌われる歌詞は南伝大蔵経、大王統史の一節です。仏法は吾々凡人の思惟を超えたものであると云うような意です」

 私はこれまで小松和彦指揮による初演時のライヴ録音CDを聴いてきたが、今回本名徹次(ほんみょう 徹次ではない)指揮、日本フィルハーモニー交響楽団による演奏を聴いてみた。

 小松の演奏を聴いている分には、やや表現が平板かなという印象はあったが、でもそれなりに満足していた。そもそも小松和彦という指揮者は表現の深みが乏しいという短所がある(私が思うに)。ただ、「釈迦」の演奏でそれを補っているのは、初演という気負いが良い方向に出ているところだ。

 本名の演奏は(しつこいようだが、ほんみょうではない)、強奏時の迫力こそ小松の初演ライヴにやや劣るが、とても音楽的だ。つまり、表情が豊か。音楽が繊細となる場面で、それは特に成功している。
 そしてまた、ガンガン力で押してくる演奏ではないのに、伊福部の作品が持つ野性っぽさ、土俗的な香りがプンプンしている。いいんじゃない?

 2004年ライヴ。合唱は東京混声合唱団、コールジューン、卆寿祝賀合唱団。
 キングレコード。