2013っていうのはご想像のとおり2013年って意味なのだが、実のところ、尿意ってものは毎年、毎月、毎週、毎日どころか、数時間ごとに起こるわけで、そのことに私は皮肉を込めて敬意を表したい。
にしても、この歳になってまで、なぜ緊張すると尿意頻度が大興奮並みに高まるのだろう?もう緊張から解き放たれても、いや緊張に対しにぶにぶちゃんになってもいいと思う。でも、神経症並みにすぐにオシッコをしたいという感覚が、マーラーのシンフォニーのシンバルの登場頻度並みに忙しく起こるのである。
なぜ、緊張感からだと言い切れるのかというと、夜間寝ている間は、朝までほとんどトイレのために目覚めることがないからだ(そのままおねしょしているという意味でも、もちろんない)。
とにかく私にとって問題なのは、乗り物に乗る前だ。
考え過ぎなのはわかっている。
昔、尿管結石で泌尿器科にかかったとき、待合室に貼られたポスターにも“あまり神経質にならずに適度にがまんしましょう”と書いてあった。それに、たいした出もしないのに、つまり結果的に勢いのない排尿をしていると石(の素となる砂状物質)がたまりやすいという説もあるらしい。ある程度尿がたまった段階で、勢いよく放出するのがいいそうなのだ。
それはともかくとしても、勢いのない、壊れた蛇口からタラタラと糸のように出てくる漏水のようなおしっこをしていると、その軌跡は、放物線どころか重力に完敗して直下に向け一点鎖線のようになり、“みなが気持ちよく使えるようにきれいに利用しましょう”という警告文に反して床を汚しかねないし、最悪の場合にはズボンを濡らしてしまうことさえあるわけだ。
先日、長距離都市間バスを利用した。
バスに乗る15分前と10分前と7分前にトイレに行った。7分前の時なんて、滴が一滴出たか出ないかだった。
発車と同時におしっこがしたい感じがしてくる。
が、生理学的に判断し、出るわけはない。
不思議なことに20分も経つと尿意は消失する。このことからも私の尿意は自らが生み出した架空の感覚だと推察できる。
1時間半ほど走り、バスはパーキングエリアでトイレ休憩。
トイレは混んでいた。
本当ならゆっくりと排泄行為を成し遂げたいのだが、後ろにずらっと野郎ばっかりが並んでいるところで、私のわがままは許されない。
私は残尿感があるまま、バスに乗車。
発車後1時間ほど経つと、ほぅら、尿意が。
今度は残尿感などではなく、ズバリ残尿だったに違いないと思う。
実はこのバスには、中央部右側にトイレが設置されている。なんともありがたいことだ。
設置されているということは、それを利用するのは乗客に付与された権利である。
が、こんなところで見栄坊な私は、その利用者第1号になりたくない。高速道路新区間開通の一番乗りを目指すようなタイプでは、私はないのだ。
と、そのとき前方座席のおじいさんがトイレへ入った。
運転席近くのトイレ利用ランプが点灯する。
私にはそれが燦然と輝く救済の灯に見えた。
おじいさんが出てくる。
ここですぐに行くと、ちょっとジェントルマンっぽくない。
すると、今度はご婦人がトイレに行く。
なぁ~んだ、みんな行きたかったんじゃないか……。ランプがつく。
出てくる。
ここですぐ行くと、女性が使った直後のトイレに入るのが好きな変態と誤解される恐れがある。
そこで15分ほど空けて、いよいよトイレに行く。
思った以上に出た。
やはり気のせいではなかったのだ。
にしても、走行中のバスのなかで小用を足すのは、列車のトイレよりも揺れが激しく困難な作業であることがわかった。
水を流すと、バスの揺れのせいで、荒れ狂った海の流れのように渦巻き、穴へと吸い込まれた。水ももまれて大変だ。ごめんね、私のせいで。
出すものを出して、すっきりした私は、3回ほど揺れでよろけながらも優雅な足取りで自分の席に戻る。
ふと車窓の外に目をやると、おぉ、空き地が。
別に空き地が珍しいわけではない。
その場所は、かつて父が入院していた病院が建っていたところなのだ。
父がメインで入院していたK病院はもう少し離れたところにある。しかし、入院日数が長くなると同じ病院には連続していられないということで、系列であるK病院の分院に何度か移らされた。
その分院がなくなり、更地になっていたのである。
まぁ、それはいいや。
と、バスは15分ほどで私が降りる終点に着いた。
そのくらいだったらトイレに行くのを我慢できなかったのかって?
それができなかったんです……
ディーリアス(Frederick Delius 1862-1934 イギリス)の「海流(Sea Drift)」(1904)。
下で紹介するCDの帯に書かれている解説を紹介すると、
ホイットマンの詩集「草の葉」から取られた「ゆりかごの中から」という詩に基づいて書かれた曲で、つがいのカモメたちに自らの心を映し出す少年の物語を、時には激しく、時には優しく包み込むように描き出したもの。少年のナイーヴな心に残された、小さな別離の悲しみは、やがて死へと繋がるであろうことを否応なく意識させられる感動的な作品です。
ということだ。
バリトン独唱と合唱を伴う、愛と別れを描いた作品。この曲と、父が亡くなったことや病院が更地になってしまったこととを結びつける気はなく、あくまでバスのトイレの水の流れからこの曲を思いついただけ。
詩の大意は、少年がカモメの巣を見つけるが、そこにはつがいのカモメがいて、卵を温めていた。しかしあるとき雌鳥がいなくなってしまう。雄鳥は雌鳥を探し続け、悲しい鳴き声を上げ続ける、というもの。
あぁ、喪失感……
村上春樹の世界……
ディーリアスの音楽は、彼の特徴である水彩画のようなタッチのもの。と同時に、演歌的なメロディーもあり、彼の音楽は日本人の感性にフィットするよなぁと、ここでも思わずにはいられない。
S.ザンデルリンク指揮フロリダ管弦楽団、ウィリアムズのバリトン、マスターコラール・オブ・タンパベイの演奏で(シュテファン・ザンデルリンクはクルト・ザンデルリンクの息子で1964年生まれ)。
T.ビーチャムの編曲による版。
2012録音。ナクソス。
ところでこのCD、日本語で書かれた帯には“ジェームズ・K(バス)”という表記もある。
ということは、バス独唱もあるのか?この曲はバリトン独唱だけのはずだが……
ネットで調べても、どのショップの紹介でも“ジェームズ・K(バス)”となっている。
しかし、写真を見ると、バリトン独唱の方は“Leon Williams,Baritone”と書かれているが、もう一方は“James K. Bass”という表記である。
微妙に違うわけだ。
ブックレットの中を見ると、
James K. Bass,GRAMMY nominated singer and conductor,is Director of Choral Studies at the University of South Florida and Music and Artistic Director of The Master Chorale of Tampa Bay.
と書かれている。
つーことは、たぶん、バス独唱のバスではなくて、名前がJames K. Bassという一気通貫であり、ここでは合唱指揮をしていると考えるのが妥当だ。
つまり、例えば山田真琴さんという人が熱心に指導しているママさんコーラス隊が何かの拍子にCDを出すことになって(驚いたことに指揮はこの際小澤征爾ってことにしちゃおう)、小澤征爾指揮札幌市時計台婦人合唱隊、山田真(琴)と誤表記されるようなものだ。
私はこのバスの一件で、けっこう悩んだものだった。
ちなみにCDの帯には“少年少女の心を持つ人に聴いてほしい”と銘打たれているが、大丈夫。私が聴いても問題は生じなかった。
タイトルのJKを女子校生だと思って期待した人にはお詫び申し上げる。
新館入口(2014.6.22~)
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