f6406288.jpg  衝撃的な音が響き渡ったのは日曜日の午後10時ころだった。

 音楽を聴きながら、しかし日中の疲れで少しウトウトしかかっていた私は、そのガッシャーンっというガラスが割れる音でハッと覚醒した。

 音は近くから聞こえたのは間違いなかった。
 いったいどこでガラスが割れたのだろう?

 音の源はすぐにわかった。意外なほど近かった。
 それはこの部屋で起こったことだった。
 それも私の足元で。

 そのとき私はハイボールの飲みながら音楽を聴いていた。が、手にしていたそのグラスをウトウトして床に落としてしまったのだった。

 アホだね。
 まるでマンガの世界だね。

 ニッカの髭おじさんが描かれたおまけでもらったグラスは単に落下しただけとは思えないくらいに割れ、床には残ったハイボールと氷、そしてグラスの破片が散乱した。
 こうなるとウトウトを吹っ切らざるを得ず、キリッとした態度で私は後始末をした。

 そのときかかっていたCDはジンマンが指揮するマーラーの「悲劇的」の終楽章だった。
 まったくウソみたいに出来すぎ。
 曲のなかでは悲劇はハンマーが打ち鳴らされるが、アタシの場合はグラスが割れる音。
 自分で起こした悲劇。まったくおバカもいいところだ。

 マーラー(Gustav Mahler 1860-1911 オーストリア)の交響曲第6番イ短調「悲劇的(Tragische)」(1903-05/改訂1906)。
 ジンマン指揮チューリヒ・トーンハレ管弦楽団による演奏。
 2007録音。
 中間の2つの演奏順序は、アンダンテ→スケルツォ。
 第4楽章のハンマーは2回。

 ジンマンのマーラーでは、最近の記事で取り上げた第4番第5番については私にとってあまり魅力的なものではなかった。が、この6番はいい。アプローチとしてはどれも同じなのだが、なぜか4番5番はペケなのに、6番ははまってる。私の好みとしては、だが。

 だから聴きながらウトウトしてしまったのは演奏が退屈だったわけではなく、疲れてたのといいだけ酔っぱらっていたため。ジンマンに罪はない。

 この6番においてもジンマンの演奏はスッキリしている。
 深刻度は強くなく、重たさもない。かといってサクサク、袋開けたてのマリービスケットって感じでもない。オケは存分に鳴っているし、メリハリもある。

 しかし、情感がうまい具合に-過剰にも淡泊にもならず-コントロールされ、悲しげなことは伝わるが、聴き手を溺れさせない。そのため、この曲の美しさをたっぷり堪能できる。
 一方で、ねっちこさやドロドロ感がないため、「もっと刺激が欲しーの」と感じる人もいるだろう(私もどちらかというと、そのタイプ)。うん、どこか表情がよそよそしいのかな?

 とはいえ、ジンマンの手腕は見事。
 巨大で複雑なこの曲を、一流だが健康志向のシェフがつくる料理のように上品に仕上げている(←主張がよくわからないので、読み流してよろしい)
 人の不幸に共感しやすくて困っちゃう人は、この「悲劇的」が向いているだろう。聴いたあと、やるせない重い気分にならないで済む。むしろ、純粋に音楽に感動できる。
 まとめると、クセのない名演だということ。

 で、なぜグラスを割るくらい疲れていたのかって?

 すでにご報告したように、土曜日は4時間ほどではあったが、庭仕事に集中しすぎた。
 むかし崩壊したアーチの残骸を柱にしてクレマチス用のラティスパネルを立てた。
 その柱を中型の木製ハンマーで地面に打つ(おぉ、無意識ですでに近いうちにマーラーの第6交響曲を聴く準備をしていたかのようだ)。
 そのあとは雑草取り。中腰の連続。
 そんなこんなで、その夜は震えに襲われたわけだ。

 翌日曜日の朝はすでにあちこちが痛む。
 が、帰らねばならない。

 まずは週末に自宅に帰って来ていた長男を送って行ったが、その途中で高速道路が故障車のため通行止め、とラジオで言っていた。
 どうせ今すぐに向かってもどうせ通行止めだ。ということで、その街で醤油ラーメンを食べる。
 美味しいラーメンだった。ついでに、なんでこんなところでと言えなくもないが、この街のサツドラで炭酸水を1ケース買う(500ml×24本)。1本当たり58円。前は(別のブランドだったが)55円だったのに……

 さて、いよいよ帰ることにしようとしたところで、通行止め解除の情報が入った。
 ラーメンを食べることによって、効率よく時間を使えたわけだ。

 1時間ほどで夕張インターに着き、そこから高速に入る。

 しばらく走ると今度は“占冠⇔十勝清水 事故のため2km渋滞”という表示が。しかし、これも占冠に着くころには解消されているだろうと高をくくる。
 むかわ穂別インターを通過するときに、渋滞情報は3kmになっていた。

 そっか、事故処理が終わったあとの渋滞ではなく、事故が起こりたての渋滞だったのかとここで気づく。ということは、もっと渋滞は長くなる可能性がある。
 ならば占冠SAでトイレに寄っておこうと決心する。

 ……が、占冠SAにたどり着く直前の占冠ICで“事故のため通行止め”“ここで下りよ”と下りるよう命じられる。

 日勝峠越えということだ。
 占冠から国道274号まで行くなんて、ひどく無駄なことをしてしまった感じがする。それなら夕張で高速に乗らないでそのまま国道(その国道こそ274号線だ)を走ればよかったのだ。

 日高町まで南に下がり、274号線に入る。
 日勝峠を越え、十勝清水から再び高速に乗り、芽室帯広ICで下りる。
 途中十勝平原SAでトイレ休憩。長く座っていたせいか、車を降りると内腿の痛みが増していて、まるで内腿に激痛が走る人のような歩き方になってしまった。
 歳をとると、痛みがピークになるにも時間がかかるのだ。

 そんなわけで、ガーデニングと予期しなかった回り道によって疲れがたまったわけだ。

 おまけに月曜の朝起きると、今度は右手の痛みがピークになっていた。
 やれやれである。

 日勝峠付近では山々にまだ雪が残っており、道のすぐそばでは鹿が何かを食べていた。ネズミにやられた私のかわいいバラのことを思い出してしまった。