優れたピアニストでもあったショスタコーヴィチ(Dmitry Shostakovich 1906-75 ソヴィエト)だが、彼が書いたピアノ作品は少ない。
ショスタコーヴィチがピアノ・ソナタを2曲残していることは、意外と知られていないかもしれない。そしてまた、めったに演奏されることがない。
その2曲のうち、今日はピアノ・ソナタ第1番Op.12(1926)。
ショスタコーヴィチのデビュー作である溌剌とした交響曲第1番(1924-25)は、1926年の3月に初演され多た際に「現代のモーツァルト」と讃えられるほどのものだった。
しかし、その年の秋に作曲されたピアノ・ソナタ第1番は、溌剌とか洒落てるというのを完全に通り越し、あまりに暴力的で攻撃的で前衛的である。第1交響曲が持つイメージで聴くと、最初の1音から当惑することになるだろう。
プロコフィエフのピアノ・ソナタの影響があるというが、狂暴な打鍵はプロコフィエフ以上かもしれない。
「ショスタコーヴィチ大研究」(春秋社)のなかでピアニストの岡田敦子は次のように書いている。
《ソナタ第1番》は、ショスタコーヴィチ自身が後に否定した作品だが、むしろその否定しなければならなかったほどの前衛性によって、中期の代表作と言われる新古典主義的な《24の前奏曲とフーガ》と双璧をなす作品である。打楽器的な和音連打や無窮動的なパッセージによってびっしりと書き込まれた密なテクスチュアは、半音階の動き、四度音程の堆積による和音、不協和な短二度音程や長七度音程、平行和音の動きなどを多用して、調性音楽の柔らかい響きを否定し、激烈な音楽を実現している。また、一瞬だが、ハーモニックスのような効果やクラスターも見られる。形式的には、ソナタと同じく2つの主題があり、その絶えざる展開によって曲は出来ているが、ソナタ形式とは認められない。ソナタという名称は古典的な意味ではなく、たんに〈器楽における絶対音楽〉であることを示していると言うべきだろう。
無旋律的で聴くのもしんどいが、もちろん弾くのも相当しんどいに違いない。そのためか、録音も少ない(が、ショスタコーヴィチ自身はこの曲の録音を残してもいるという。彼のピアノ・テクニックがすごかったことがわかる)。
救いなのは(?)、演奏時間が15分に満たないということ。
単一楽章だが、急-緩-急の構成となっている。
なお、ショスタコーヴィチはその後、ここまで過激で急進的な作品を書くことはなかった。作曲者名をふせられていきなりこの曲を聴かされたら、これがショスタコの曲とは思わないだろう。まるで別人なのだ。
ペトルシャンスキーのピアノによる演奏をご紹介。
2006録音。Piano Classics(イタリアのStradivariusからのライセンス)。
新館入口(2014.6.22~)
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