bfde17f2.jpg  何の情報も与えられずに聴かされたなら、「これ、すっごくブルックナーの交響曲第4番に似てる。パロッてるのかな?」と思うに違いない。

 デニス・ラッセル・デイヴィス-そう、あの耳飾りのおっさんだ-が棒を振ったブルックナー(Anton Bruckner 1824-96 オーストリア)の交響曲第4番変ホ長調「ロマンティック(Romantische)」WAB.104の演奏のことだ。

 そんなに奇抜な演奏をしているのかって?
 いや、演奏ではなく使っている楽譜の版のせいだ。

 この曲には大きく分けて3つの版がある。

 ① 1874年稿=ノヴァーク版第1稿
   この曲が作曲されたのが1874年。その際の楽譜ということになる。
   ただし、ブルックナーは1877年に全面改訂を考え、翌78年から作業を開始した。

 ② 1878-80年稿=ハース版,ノヴァーク版第2稿
   ①の改訂で1878年11月に完成した楽譜は1878年稿という。
   第1稿の第3楽章はまったく新しいものに入れ替えられた。
   さらに1880年に第4楽章を大幅に修正している(1878/1880年稿)。
   今日もっとも使われている版が、このハース版もしくはノヴァーク版第2稿。

 ③ レーヴェ改訂版
   1887~88年にかけてブルックナー監修のもとで弟子たちが改訂したもの。
   第3稿あるいは1888年稿とも呼ばれる。
   レーヴェというのはこのときに第1楽章と第4楽章の改訂を担当した人。
   交響曲第4番で最初に出版された版がこれ(1889年)。

 D.R.デイヴィスのは①を使った演奏。

 その前にCDのジャケット写真について。

 第6番のときよりも衝撃度は少ないが、やや青みがかった顔色がドラゴンボールの悪役風。
 人間界で言えば、狸小路4丁目の交差点近くの路上に青い布を敷いて手作りアクセサリーピアスを並べ、“おトクです、いらっしゃませぇ”と書いた段ボール紙を置き、その前にしゃがみこんでいる国籍不明の物売りを連想させる(布の色が顔に反射してるってわけ)。

 ただ、この写真からは、このときピアスをしているのかどうかはよくわからない。
 耳のとんがり方がなかなか印象的だが。

 この第4番のCDは、D.R.デイヴィスによるブルックナーの交響曲全曲ライヴ録音の第1弾となったもの。雑誌“レコード芸術”で特選盤に輝いている。

 先日紹介した第6番がたっぷりと音楽を味わうような雄大な演奏だったのに対し、こちらではコンパクト気味でサクサクと進んでいく。響きは全体的に軽やかなフェザー級。

 いつも聴きなれているハース版あるいはノヴァーク版第2稿とは、異母兄弟ぐらい違いすぎる。とにかく、「おまえ誰だ?」っていうくらいのもので、私がここで「けっこう違う」と5000回コピペして書き連ねても伝わらないだろうし、それ以前にあなたのお怒りを買うだろう。
 だから、お願い、実際に自ら聴いてみて。

 なんつーか、そっくり入れ替わった第3楽章は別として、あたかもブルックナー作曲「自作の『ロマンティック・シンフォニー』による大幻想曲」って感じだ(もちろんこっちの方が先に書かれているのだけど……)。

 何度聴いても、頭の中で準備している次のフレーズが何度も裏切られるところは、「オレってまたまた同じあやまちを繰り返しちまった」と、いった自虐的快感さえおぼえる。

 2003録音。ライヴ。ARTE NOVA。