0aadf6d5.jpg  デニス・ラッセル・デイヴィスによるブルックナーのCDの紹介も、今回で3回目となる。

 最初に取り上げた第6番のジャケット写真は実にインパクトがあったが、この8番は、慣れのせいもあるのか、もう怖くもおかしくもないもんね。

 6番のジャケットだと、あのCDを手に取るにはけっこう勇気が必要。ましてやそれをレジに持って行くのはかなり躊躇してしまう。それらを克服したとして、あなたはレジの前で、「本当にこれを買っていいんだろうか」とまるで犯罪者のような気持ちになり、その不安を抑圧して買ってしまったとしても、「これを家に持ち帰ったら妻に叱られるんじゃないだろうか?仏壇の裏にでも隠しておかなきゃ」と、秘密を抱えてしまうだろう。

 私んちなんて仏壇も神棚も礼拝堂も懺悔室もないから、6番のCDは本棚の「イースター島の謎」という講談社現代新書の横に仮安置している。

 これが、彼の顔ではなく、雪を力強く吹き飛ばしているラッセル車の写真だったら早とちりの鉄道マニアが買ってしまい、売り上げ増にもつながっただろう。早とちりの鉄道マニアがクラシックCDの売り場に足を踏み入れたら、の話だが。

 実は鈴木淳史の「クラシック 悪魔の辞典【完全版】」(洋泉社新書)で、D.R.デイヴィスが取り上げられている。

 【D.R.デイヴィス】
 ウィーン3番目のオケから清廉で落ち着いた音を引き出す、3番目のデイヴィス。頭頂部がハゲかかったオッサンのくせに、髪はポニー・テール、片耳ピアスという、イカれた奴のアウラをまき散らしながら登場するが、ニヤニヤしつつも、真面目なアプローチで楽曲に取り組んでいる姿に、だれもが驚きの表情を隠すことができなくなる指揮者。


 ピアスは片耳だけだったのか……
 なに、ポニー・テール???

 でも、確かに、演奏を聴くと驚かされる。
 私もあらためて、人を外見で判断しちゃいけないと痛感した。痛感したが、直らないだろうけど。

 で、3番目のデイヴィスってことは1番と2番がいるってことだが、きっとコリン・デイヴィスアンドリュー・デイヴィスのことだろう。

 この第3の男こと、片耳ピアスのおじさんがリンツ・ブルックナー管弦楽団を振った、ブルックナー(Anton Bruckner 1824-96 オーストリア)の交響曲第8番ハ短調WAB.108。
 2004年のライヴで、彼のブルックナー交響曲シリーズの第2弾である。

 交響曲第8番は1884年に着手され、'87年に完成した(第1稿)。 
 これを第7番を初演し成功をおさめた指揮者レヴィに楽譜を送ったところ、なんとブルックナーが“私の芸術上の父”と敬愛するこの指揮者は、演奏不可能と宣言した(人を介してだが)。
 ブルックナーは褒められ絶賛されると期待していたに違いない。
 レヴィの判断にブルックナーは落ち込み、1889~90年に改訂を行なう。こうして完成したのが第2稿である。

 現在は、1887年の第1稿に基づくノヴァーク版第1稿、1889-90年の第2稿に基づくハース版とノヴァーク版第2稿、そして第2稿を元にした1892年出版のJ.シャルク版がある。

 通常はハース版かノヴァーク版第2稿で演奏されるが、D.R.デイヴィスはノヴァーク版第1稿を用いている。インバルなどもこの版を使った録音を残している。

 第1稿が第2稿と違うもっとも大きなところは、第1楽章の終わりが高らかなファンファーレで終わるところ。最初にインバルの演奏を聴いたときには(FMでの海外ライヴだった)、私もかなり驚かされた。
 にしても、第1稿は第2稿に比べるとしつこい。くどくどとお小言を言われ続けているような進行だ。ふと、進んでるのかしらん?とさえ思ってしまう。

 D.R.デイヴィスの演奏は、第8番でもすっきりしたもの。だから、イライラが募って「しつこいっ!」って叫んじゃわないで済む。
 流れが良く、オーケストラも良く鳴っている。爽やかなのがブルックナーに適しているとも思えないが、この爽やかさのせいでインバル盤よりも楽しめる。

 ARTENOVA。