人さまの名前についてとやかく言うのもなんだが、スッペって変な名前である。
スッペ(Franz von Suppe 1819-95 オーストリア)は、ベルギー人を先祖とするウィーンで活躍したオペレッタの作曲家。
軽快な作風でパリのオッフェンバック(あの“カステラ一番、電話は二番”で古くから日本でもポピュラーだった「天国と地獄」の作曲者ね)と人気を二分したが、現在はほとんど数曲(それもオペレッタの序曲)が聴かれる程度である。
が、“程度である”といっても、喜歌劇(つまりオペレッタ)「軽騎兵(Die leichte Kavallerie)」の序曲はかなり有名だ。冒頭のファンファーレはスポーツのイベントなどではよく使われているようだし、中間部の軽快な駆け足を思わせるメロディーも、これまたポピュラー。知らない人は皆無とは言わないまでも、カステラ一番に匹敵するほどだろう。
が、私はなんか好きじゃない。
たぶん、自分では思い出せないが、嫌な思い出と結びついているんだと思う。
たとえば、昔むかしドラゴンズ・ファンだったことがあったが、大好きだった小松辰雄が広島球場でホームランを打たれて、そのときこのファンファーレが球場に鳴り渡ったとか……
いや、違う。だって広島-中日戦なんて、北海道じゃテレビ中継されないもんな……
いずれにしろ、どうも好きじゃない。
「軽騎兵」序曲が嫌いってことは、スッペそのものが好きじゃないってことに等しい。
坊主憎けりゃ袈裟まで、じゃないが、スッペという語感さえ好きじゃなくなった。
しかも最近じゃこっちの方が原語の発音に近いと、ズッペと表記されていることもある。
ズッペ……なんて卑猥な響きなんだろう。女子高生は近ごろ進んでるらしいからそんなことはないだろうが、小学生女児なら顔を赤らめるかもしれない。ズッペ……
でも、何が根拠で顔を赤らめなきゃならないんだ?
おじさんは自分でよくわからなくなってきた。
が、スッペことズッペの「レクイエム ニ短調」(1855)を最近聴いて、スッペって決してやらしいイメージじゃないんだ、と当たり前のことに気づいたし、印象を新たにした。勝手な妄想を、想像を、夢想をしてすまなかった、ズッペさん。
井上太郎著「レクイエム」(河出文庫)によると、このレクイエムはフランツ・ポルコニに捧げられ、1855年11月のポルコニの追悼式で初演された。
ポルコニはウィーンのヨーゼフシュタットの劇場主で、のちにアン・デア・ウィーン劇場の経営者になったが、この人こそスッペの才能を最初に認めた人であったという。
同書でこの作品は次のように紹介されている。、
全体に伝統的なスタイルで書かれており、4人の独奏者に4声部の合唱、それにオーケストラも普通の編成である。「キリエ」や「奉献唱」それに「コンムニオ」におけるフーガは見事なものだが、センティメンタルな旋律がオペラの一場面のように唱われるところは、やはりズッペらしい。「怒りの日」の「死も自然も驚かん」のところで繰り返される旋律は、マーラーの《さすらう若人の歌》の冒頭の旋律にそっくりである。
冒頭の最初の音から、なにやら素敵な曲の予感、って感じだったが、全曲を通しシリアスで美しくドラマティック。
知られざる名曲と言わざるを得ない。そして、ご指摘の通り「さすらう若人の歌」に似てる。
私が聴いたCDはコルボ指揮グルベンキアン財団管弦楽団、同合唱団、マトス(S)、カリン(A)、マチャド(T)、ロドリゲス(Bs)による演奏のもの。
1997年ライヴ録音。ヴァージン・クラシックス。
考えてみれば、そんなんで私は「軽騎兵」序曲にしても、いわゆる世界的指揮者による演奏のものを聴いたことがなかった。
あれだけオケが鳴る曲だから、そういう指揮者の、例えば↓ のような演奏を聴いてみれば小松投手の悔しげな顔の呪縛から逃れられるかもしれない。
ちなみにスッペの本名は Francesco Suppe-Demelli なんだそう。
本名を名乗ってくれりゃまだよかったのに……
プロフィール
MUUSAN
クラシック音楽、バラ、そして60歳代の平凡ながらもちょっぴり刺激的な日々について、「読後充実度 84ppm のお話」と「新・読後充実度 84ppm のお話」の2つのサイトで北海道江別市から発信している日記的ブログ。どの記事も内容の薄さと乏しさという点ではひそかに自信あり。
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© 2007 「読後充実度 84ppm のお話」
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返事が遅くなりすいません。オリンピックというよりは、競馬中継が頭に浮かびます、私は。いえいえ、私はギャンブルはしませんけど。