849a88c7.jpg  木曜日。
 新たにランチ営業を始めた“酒場”に昼ご飯を食べに行ってみた。
 ヤマダ課長と一緒である。

 ここにバーがあることは知っていたが、来たことはなかった。
 そしてまた、この店がランチを始めたということは新聞の地方版の記事で知った。

 日替わりは、当店自慢と銘打った、ポークソテー・トマトソースがけ。
 地元産の豚の豚肉だそうだ。回りくどくて変な表現だけど。
 また、ここはカレーライスもウリであるそうだ。

 カレーといえば、先日書いたように私は自分で作ったカレーを数日間食べ続けた。
 だから、ヤマダ課長がカレーを頼んでも、私は頼む気にはならなかった。
 あのカレーで、私は今回初めてエノキダケを入れてみた。
 味的にはなんら問題なかったが、コメントが寄せられてもいたように、やはりカレーにエノキというのは奇異に感じる人もいたようだ。そもそも作りながら私も奇異に感じたぐらいだ。
 妻も「えっ?エノキを入れたの?」と、突然家を訪れた見知らぬエノキさんという人物をうかつにも家にあげてしまったかのような驚きの声を上げたほどだ。

 が、繰り返し言うが、味はまったく悪くない。
 たが、もう少し細かく切るべきだったと反省した。
 反省したが、きっとカレーにエノキダケを入れることを、私はもうしないだろう。次は、ない……

 で、私はその店でポークソテーを頼んだのだが、出て来たものの焼き方はレアだった。
 ポークでレアねぇ……

 でも、焼き時間が足りなくて結果的に生焼けになったという感じではない。これは明らかに店の人がそういう焼き方、食べさせ方にこだわっている感じだ。そしてまた、真のグルメ人なら、これはすばらしい!とj感嘆する一品のような気がする。
 
 外観からもレアだとわかるのだ。赤い肉汁がにじんでいるもの。これがミスだとしたら、盛り付けのときに気づかないはずがない。視力が正常ならば。

 地元産の豚だ。
 きっと安全安心に違いない。
 で食べたが、やっぱ豚肉はちゃんと火を通した方がおいしい。
 生焼け度の強いところは私は残した。
 やっぱ、カレーにすればよかった。福神漬けがついてない、まさにカレーとライスだけだったけど。

 社に戻っても、生焼けのことが気になってしょうがない。
 あのときと同じだ。歴史は繰り返される……

 なぜ、「レアのようですが、これはこのような焼き方で食べても大丈夫なブタさんなのですか?」と、どうしてあのとき聞く勇気を持たなかったのか?

 そんなことを考えていると、まさに病は気からで、おなかの調子の悪化と吐き気に微かながら襲われ、またのどのあたりもモヤモヤしてきた。
 赤みが残る、あのポークソテーの姿が脳裏から離れない。

 私になんてことをしてくれたのだ!
 肉よ、謝れ!

 さて、ドヴォルザーク(Antonin Dvorak 1841-1904 チェコ)の序曲「謝肉祭(Karneval)」Op.92,B.169(1891)。組曲「自然と人生と愛」の第2部に当たる作品だ。

 この曲の演奏で、私がLP時代に親しんでいたのがシルヴェストリ指揮ロンドン・フィルのもの。
 EMIから出ている15枚組のシルヴェストリのボックス・セットでひどく久しぶりに再会した。

 これだ!
 私が待ちわびていたのは、すっかり忘れていたけど、これだ!
 この曲の録音はそう多くないが、CD時代になってガンゼンハウザーマリナーが指揮したものを聴いてきた。が、どこか満たされなかった私。

 シルヴェストリ盤を聴いて-この演奏が私にすっかり刷り込まれているのだろうけど-、はちみつ壺に頭を突っ込んだプーさんのように、久々に満たされた。

 パワー全開で始まり、たたみ込むように終わる。圧巻だ。
 そして何より、泣かせないでよ!と言いたくなる濃厚なノスタルジアをぷんぷんと放つ中間部。
 単に昔これに親しんだから、これに洗脳されたから、というにとどまらない、感動的な演奏である。
 この作品の演奏の中では最高峰と言えるものだ(キッパリ!)。
 1958録音。

 LPではこの「謝肉祭」、交響曲第8番ト長調Op.88,B.163(1889)とのカップリングだった。
 ドヴォ8については、シルヴェストリよりも同じ廉価盤でも、RCAのミュンシュ盤を聴くことの方が多かったが、あらためてシルヴェストリの演奏を聴くと、なんだか心がウキウキしてくる。

 メリハリ効いた鳴らせ方、歌わせ方は、この曲の特長をうまく引き出しているかのようだ。とかく強調(中傷?)されがちだが、シルヴェストリは決して言われるような爆演でムラのある異端児的指揮をする、だけではないことを実感する。こういう“つまらなくない”聴き手を引き込む演奏、意外と少ないものだ。
 オーケストラは同じロンドン・フィル。1957録音。

 さて、胸がモヤモヤ、喉がヌラヌラ、おなかがパピパピしていた(ような気が明らかにした)私は、マンションに帰ると胃洗浄殺菌の意味も込めて、いつものようにハイボールを飲んだ。
 結局、この日おなかはこわさなかったし、酔いが回るにつれ昼のことを忘れがちになってくると、諸症状は消えた。
 翌朝は、気分が悪かったが、それはレア・ポークのせいではなく、朝から雨が降っていたからに過ぎない(とはいえ、可能性は低いが感染症(E型肝炎)や寄生虫の危険はまだ残っている。

 カーニバルの語源は、ラテン語のcame vale(カルネ・ウァレ)、「肉よ、お別れだ」だという説がある。
 私としては、「生肉よ、もう食卓に出るな」って気持ちである。