273b04dd.jpg  先週の東京出張の報告の続きである。

 火曜日の午後からZさんが合流し、われわれの部隊は戦隊レンジャーシリーズのように5名となった。

 仕事を終え、その日の夜は赤坂で食事をした。
 鶏のもも肉を焼いた料理(といっても、焼き鳥というものとは違う)が美味しかった。なにより、中まできちんと火が通っているのが嬉しい。

 翌朝。
 私の朝ご飯はファミマで買ったおにぎり2個に豚汁。

 我が部隊一行5名は朝からの会議に出席。
 昼はわざわざ地下鉄に乗ってうな重を食べに行った。
 にしても、ウナギの値段がうなぎ上りだとは聞いていたが、実際にメニューの価格を見ると一瞬立ちくらみがしそうになった。
 とはいえ、ここで引き返しては五匹戦隊ウナレンジャーの名に恥じる。

 さりげなくのれんをくぐる。

 お店の人曰く、いちばん安いうな重は、うなぎ1尾分までないそうだ。
 2番目のは1尾。
 3番目のは1尾半で、お重のふたを開けると、そこには尾が折り返されたかば焼きが目の前に現れるという。店員さんとしてはお薦めっぽい口ぶりだ。折り返った様子を手首を使ってアクション披露してくれた。

 いちばん高いのは2尾。こうなると、隣にある“元祖札幌屋”のラーメンが10杯以上食べられる価格だ。オフシーズンなら東京でもビジネスホテルに素泊まりで1泊できる金額である。

 Xさんは3番目を食べたがっていたが、2番目と3番目とでは1500円の開きがある。この開きが半匹分の価格って計算になる。
 元祖札幌屋のラーメン3杯分だ。
 そんな贅沢は出来ない。

 で、緊急のレンジャー会議の結果、理想・希望・欲望は理解できるが、現実的財政事情により投資額を減額せざるを得ないということになり、よって2番目にした。
 とはいえ、これだってラーメン6杯分以上の額だ。
 十分に贅沢だ。それに、1尾以上食べると痛風発作が起こる恐れだってある。ウナレンジャーのうちの1人は血中の尿酸値が高いのだ。

 注文した5つの重は、「もう我慢できない!」と叫びたくなる寸前に悠然と運ばれてきた。
 ふたをあけると、一面がウナギで覆われご飯が見えない、というかつての状況ではなかった。
 Xさんの「ご飯が見える」という一言が、はかなく卓上にこだました。
 前は確かにこうではなかった。同じ1尾でも小ぶりになったのだろう。少なくとも、お重がひと回り大きくなったわけではないだろう。

 モーツァルト(Wolfgang Amadeus Mozart 1756-91 オーストリア)の弦楽五重奏曲第4番ト短調K.516(1787)。

 モーツァルトが残した室内楽作品のなかでも、弦楽五重奏曲は重要度が高いものである。6曲を作曲しているが、編成としてはいずれもヴィオラが2挺となっている。
 6曲のうち頂点となるのは第4番と、同じ年に書かれた第3番。この2つは姉妹曲だが対照的な性格を持つ。

 そしてまた、彼の最後の2つの交響曲である第40番がト短調、第41番がハ長調であることから、順序は逆だが、この2つの弦楽五重奏曲の性格の対照性は2つの交響曲のそれと比較される。

 “モーツァルトのト短調”と言われるほど、彼が残したト短調の作品は何とも表現しがたい哀しさや憂鬱さをたたえているが、弦楽五重奏曲第4番の嘆き悲しみと美しさには胸がしめつけられる。
 うな重のふたを開けた時の、Xさんの、そして2人の社長の、加えてZさんの、さらには私の「あぁ、うなぎが大繁殖して値段が下がらないかなぁ」という嘆き哀しみ、恨みがここにはある。
 終楽章(第4楽章)の後半で、それまでの哀しみをやわらげてくれるように愛らしく変わるが、それで少しは救われる気がする。

 また、弦楽五重奏曲第3番ハ長調K.515の明るく堂々とした風格は、まさに室内楽の「ジュピター」である。3番と4番の陽と陰、明と暗の違いは、明るい元気印の姉と、美しいがどこか影のある妹のよう。ところでどっちが好きですか?いや、姉と妹じゃなくて、3番と4番のことです。

 うれしい表情も悲しい表情も素敵に聴かせてくれるラルキブデッリの演奏で。
 1994録音。ソニークラシカル(VIVARTE)。

 にしても、さまざまな食品加工技術がこの世にはあるのだ。
 ウナギのかば焼きのそっくり商品ってできないものなのだろうか?(さんまのかば焼きは、明らかにさんまの味がするので、代替にはならない。あれはあれで独立した食品である)。

 それはともかく、ウナレンジャーは午後の会議に出たが、午後からはSさんが加わった。
 そのあとまた夜がやって来たので夕ご飯を食べなきゃならないはめになり、この日の夜は6人で和食。

 そして次の日の朝は、私は珍しく洋食。
 ファミマで買ったポテトサラダ・サンドとハム・サンド、それと缶コーヒー。

 午前中の会議を終え、6人は解散。
 私はSさんといっしょに空港へ行き、第2ターミナルの中の中華料理店で担々麺を食べた。ちなみにSさんは五目麺。

 こうして会議と食事が繰り返された出張は終わったのだった。