小学校の図工の時間。
画用紙に鉛筆で下書きしていた私。自画像だ。
先生が寄って来て、「なかなか上手く描けてるね」と褒めてくれた。
2週間後の同じ時間。
すでにギターペイントを使って色をつけていた私のところに先生が寄って来て、「下書きはよかったのに絵の具を使ったらなんでこんなにひどくの?」と、ダイレクト・モードでけなされた。
これもまた、わが人生脚本のリハーサルで起こった出来事である。
だから私は図工の授業を受ける義務がなくなったなら二度と絵筆は持つまいと、才能のなさに挫折した画家のように、密かに決意したのだった。
が、その後大きな間違いを犯してしまった。
高校に進んだ時、芸術の授業は音楽か美術か書道のどれかを選択することになっていた。最初は音楽を選ぼうとしたのだが、同じ中学から入学した友人が「油絵だったら塗り重ねられるから、そっちにしようよ」と私を誘ったのだった。
そして、これまた断りきれないシナリオを持つ私は美術を選択してしまったのだが、何度書いても、例えば静物でリンゴを書いても、どう見ても球状ではなく、それは日本の国旗の真ん中のように、塗りつぶされた円のままだった。
ところで画家のドイツ語はMalerだ。
マーラーに似ている。
マーラー(Gustav Mahler 1860-1911 オーストリア)と結婚したアルマ、あの淫乱女(という表現がまずいなら、男性遍歴魔)のアルマの実父(アルマが13歳のときに亡くなった)は画家だった。
アルマがマーラーに次第にひかれ結婚に至ったのは、Mahlerに対してMalerであった父の姿を潜在意識下で重ね合わせたためだ、と分析する学者もいるという。
学者といっても、もちろん動物学者とかじゃなくて心理学者だと思う。
それは置いといて、そのマーラーの交響曲第9番ニ長調(1908-09)。2000年にスヴェトラーノフがスウェーデン放送交響楽団を指揮したときのライヴで、頭でどうのこうの言ってる場合じゃなく、全身で感動する演奏だ。
CDの帯には深緑色の地に黒文字という、おそろしく目に悪い組み合わせで以下のように書かれている。
スヴェトラーノフが忍び寄る死の影を感じながら2000年1月に紡ぎだした絶美の演奏。第1楽章の深遠な解釈、第4楽章の澄み切った境地は、正に生と死の表裏一体を教えてくれるかのようです。対照的に中間楽章はエネルギッシュそのもので、リズム感の良さを物語ります。スヴェトラーノフのマラ9と言えば、ロシア国立響との1992年のスタジオ録音は恵まれた音質といえなかっただけに、妙技を誇るスウェーデン放送響、名録音を誇るスウェーデン放送による当ライヴは、ファン垂涎のものでしょう。
“スコアをすみずみまで分析した”とか“精緻”といった表現とは逆の、太い筆で描き上げたような演奏。もちろん私の水彩画とはまったく異なり、大雑把という意味ではない。
そしてまた、“忍び寄る死の影を感じながら”というのは、さらにはやはり帯にある“音楽、人生への訣別”というのは、ちと違う感じがする。
知的という印象の演奏ではない。かといって、おバカではもちろんない。本能的というのだろうか?でも。暴走はしない。抑えきれない喜怒哀楽の高まりを爆発させるのではなく、ぎりぎりのところでコントロールしている。よくがまんしたね。だって大人だもん。巨匠だもん。
弛緩するところがまったくない。聴く者はあくび1つできない。
引き締まってはいるものの、マッチョというよりはほどよいふくよかさがある。だから冷徹にならない。後ろ向きななよなとしたところはなく、エネルギッシュに前進するのみである。
この演奏は魂がこもった名演だ。感動で全身がプルプルしちゃう。
あなたの棚に、ぜひ揃えて欲しい1枚だ(2枚組だけど……)。
レーベルはWEITBLICK。
先生は私を傷つけたが、言い方が悪かっただけで、正当な指摘だった。
私が色づけした自画像はおよそ自画の像には見えず、砂利道でつまずき頭から地べたに転んだあとのけが人のように顔が歪み膨れていた。いや、描いた自分だからわかるが、他人が見たら人間にさえ見えなかったかもしれない。
新館入口(2014.6.22~)
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