その村上春樹の最新作がまたまた文藝春秋に載った。
おかげでこの雑誌を4か月続けて購読するはめになっている。
3月号に載ったのは「独立器官」。
ごく簡単に物語の筋を書くと、“52歳になる医者の渡会(とかい)は、今も独身。そもそも結婚する気はない。そして、常に“結婚を言い出さない”女性たちと付きあっている。そんな渡会がいつものパターンで付き合い始めた人妻を、真剣に好きになってしまう。が、その女性は……”ってことで、相変わらず自由にいろんな女性と寝て(渡会は独身だからそのこと自体はとがめられることではないが、相手は恋人のいる女性だったり人妻だ。つまり、結婚を迫られる恐れがないから)、適当な時期が来たら別れ、また別な女性と、という春樹氏らしい話。しかし、この小説は、そんな渡会が真剣に1人の女性に惚れてしまった苦悩、そしてその相手の意表を突く行動がキモ。キモい、じゃなくて肝。 渡会に罰が当たったと言えなくもないが、この人妻、ひで奴なのだ。
悲劇だ。
ところで“独立器官”というのは違いますよ、あなたが考えているものとは。意思に反してゆーことをきかない奴栗突感を望む股間の生殖器官のことじゃありませんよ。
“すべての女性には、嘘をつくための特別な独立器官のようなものが生まれつき具わっている”ってことなのです。
マーラー(Gustav Mahler 1860-1911 オーストリア)の交響曲第6番イ短調「悲劇的(Tragische)」(1903-05/改訂'06。その後たびたび管弦楽配置を変更)。「悲劇的」というのは通称である。
今日はサロネン指揮フィルハーモニア管弦楽団の演奏を取り上げる。
2009年5月のライヴ録音。
サロネンというと優等生の型にはまったようなイメージが私には強く、緻密で美しい音楽を作り上げるが何か物足りなさを感じることが多かった。
ビーフハンバーグを食べようと思っていのに、何かの手違いで口に入れたらそれは豆腐ハンバーグだったような……。いや、体にはいいんでしょうが…… で、このマラ6もどうかなぁと、半ば大いに期待し、半ば斜に構えて聴いたのだが(サロネンには“はずし”はまずないので期待せずに臨んだということはない)、あらあら、すばらしい演奏。
曲が始まってまず、初めてこの曲を(私の好きな)ショルティ/シカゴ響(1970録音)で聴いたときと同じ感覚に襲われた。ということは、どこか共通するものがあるんだろう。
が、ショルティの精密重機が冷徹かつ正確に進んでいく感じとは違う。なんというか音にふくよかさがあり、また歩みも足元の障害物にときおりペースを乱される感じだ。悪い意味ではなく。
こりゃタダモノじゃないなと、すぐに私をおとり、いや、とりこにしてしまった。
第1楽章第2主題なんて、たっぷりと愛おしむように歌い上げる。実に美しい!ただし、展開部ではもう少し牧歌的な気分が欲しいところ。でも、それは些細な問題である。
第2楽章(スケルツォ)は、ややまじめすぎて音楽が硬くなるところもあるが、私は許す。
第3楽章(アンダンテ)もややドライな感じ。泣き女シクシクみたいにもう少し音楽に酔わせてほしい気もするが、大きな問題ではない。
第4楽章はまったく弛緩することなくエネルギッシュに進む。ぼうっとした態度では聴いてられない密度の濃い演奏。
私はこれまで聴いたマーラーの6番の録音でも、最高の部類に入る名演。
テンシュテットのような異様とも言える緊張感、切迫感はないが、あれはある種アブノーマルな名演奏。バランスのよさではサロネンが上だろう。
多くの人に聴いてほしいと、私が願うのも変だが、思っている。
signum CLASSICS。
新館入口(2014.6.22~)
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