彼の住まいにはほんとうに驚きました。最初の部屋には2,3台のフリューゲルが、どれも足をはずされて床に寝ていました。そのほかに、身のまわりのものを詰めたトランクと三脚椅子がひとつありました。次の部屋にはベッドがあり、寝具はわらの敷きぶとんと薄い掛けぶとん。これは夏でも冬でも変わりません。それから、もみのテーブルには洗面器があり、床には夜着が落ちていました。
× ×
最初の部屋には閉めきった奥の間があって、そこが彼の寝室になっていた。しかしこの部屋は狭くて暗いため、身じたくをするには隣室つまり客間を使わねばならなかった。不潔・乱雑このうえなしといったありさまをご想像くださればよい。床には水たまりができ、かなり古びたフリューゲルはほこりをかぶり、自筆譜や刻版された楽譜が山と積まれていた。そしてその下には(けっして誇張ではない)空になっていない尿瓶があった。そのかたわらにあるくるみ材の小テーブルは、その上に置いてあるインクつぼがしばしばひっくり返されたあとを歴然ととどめていた。インクでがさがさにこわばったたくさんのペン―そしてまたしても楽譜、楽譜。椅子―たいていはわら底のものだったが―は、どれも昨夜の残飯を満載した皿や衣類などでうずまっていた。
この2つの文は、ベートーヴェンについてのものだ。
ベートーヴェンと言っても、現代のベートーヴェンと呼ばれたらしいミャモーリュ・シャミュリャグォウッチのことではない。
ホンモノの-というのも変な言い方だけど-、癇癪持ちで不潔で女性にふられまくった、でも楽聖と呼ばれるベートーヴェン(Ludwig van Beethoven 1770-1827 ドイツ)の住まいに関する記述である。
最初のは、詩人ベッティーナ・ブレンターノが1810年に書いた手紙の一部。
2つ目の文は、トレモン男爵の回想の一部である。
この2つはM.ヒュルリマン編「ベートーヴェン訪問」(酒田健一訳:白水社)に収められている(これらを収めている本は他にもあるに違いないだろうけど)。
両方の文に出てくるフリューゲルとは何か?
独身の、しかももてないベートーヴェンの部屋の床に寝てるとなると何とかワイフのような人形と捉えられなくもないが(足が外されている!?)、そうじゃなくてフリューゲルとはフォルテピアノのこと。ドイツ語圏ではフォルテピアノのことを指すのにハンマーフリューゲルとかハンマークラヴィーアの名称が使われていた。
ベートーヴェンの部屋の汚さがわかる絵をそのままジャケットに使っているCDを。
このCDは先日も紹介しているが、今日ご紹介する曲はチェロ・ソナタ第1番ヘ長調Op.5-1とチェロ・ソナタ第2番ト短調Op.5-2。
ともに1796年に作曲されており、またどちらも2楽章構成。
この2曲は演奏旅行先のベルリンで作曲された。チェロの名手だったプロイセン王フリードリヒ・ヴィルヘルム2世に捧げられている。
ベートーヴェンが捧げた6年ほど前には、モーツァルトもこの王に弦楽四重奏曲を捧げている。「プロイセン王四重奏曲」の通称を持つK.575,589,590の3曲である。
当時チェロは改良が進められていたが、ベートーヴェンはこの楽器の表現力を最大限引き出そうとしたようだ。
第1番は音楽にどことなくぎこちなさを感じるが、第2番はそのようなところがなく、メロディーも印象的だ。
ツィパーリングのチェロ、ヴォデニチャロフのフォルテピアノ。
2011録音。ACCENT。
“現代のベートーヴェン”ご本人にとって、もう世は“現代”じゃなくなってしまったようだが、じゃあ次はポストかってなると、どっちの週刊誌も“老いてますます盛ん”といった特集に力を入れ続けていて、なんだかなぁって感じだ。あれ、なんで週刊誌の話になってしまったのだろう?
そのうち週刊回春なんて出たりして。
何の話でしょ?まったく……
新館入口(2014.6.22~)
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